Jクラブのスカウトは、選手のどういうところを見ているのでしょうか? 前回に続き、浦和レッズのスカウト担当部長、宮崎義正さんに聞きました。

――プロで成功する選手は、どういう性格が多いですか?
 気持ちの強い人ですね。「絶対に人に負けたくない」、「これで身を立てるんだ」と肝を据えている人。負けたら悔しいのは当然。でも、その悔しさを2~3日で忘れて、「まあいいや。楽しめれば」と切り替えてしまう人と、その悔しさを絶対に忘れず、1年なら1年にわたって取り組める人。あんな悔しさを二度と味わいたくない、だから練習して上手くなるんだと。成功するのは、そういう人が多いですね。

――実際に見て、この人は気持ちが強いと思った選手は誰ですか?
 中山雅史ですね。僕は地元の中学と高校の先輩なので、大学のときに教育実習で母校の中学校へ行ったとき、3年に中山がいたんです。その学校は中山も含めて4人くらい選抜に入った子がいたけど、僕が中山について印象に残っているのは、サッカーじゃないです。鉄棒です。

――鉄棒?
 放課後に、体操部が低鉄棒を使って"蹴上がり"を教えていたんです。それを見ていた中山が「何それ!」と言ってやってみたけど、いきなりやっても出来ない。それから3日後くらいに中山が、「先生見て!」と言ってきて、すごく不格好のパワー系だけど、蹴上がりが出来るようになっているんですよ。手は血豆だらけ。彼は興味を持ったらとことんやるタイプ。集中すると、出来るまでとことんやる。そういう執着心がすごかったですね。

――プロになれる選手は、そういうタイプなんですね。
 どんなに努力しても、難しいことはあるかもしれない。でも、諦めたら終わりですから。伸びる人は本当にサッカーが好きです。自分はサッカーが好きで、ずっと続けていたいんだ、これを追求するんだ、という感覚や執着心がありますね。
 たとえば、小野伸二に「この試合の目標は何?」と聞いたら、「ノーミスでプレーすること」と言っていました。得点するとか、しないじゃなくて、ミスをしないこと。サッカーはミスのスポーツだから、なかなかノーミスには出来ないけど、それを高校生が言うことに驚きましたね。「相手の裏を取る楽しさを追求したい」とか、小野には小野らしい執着心がありました。

――浦和レッズは今年、作陽高校から伊藤涼太郎選手を獲得しています。5年ぶりの高卒選手ですが、すでにリーグ戦にもデビューしました。彼を獲得した経緯はどんなものだったんですか?
 伊藤については、以前から作陽高校の野村先生に「面白い選手がいますよ」と聞いていました。見に行ったら、確かに面白い。それで山田暢久に行ってもらって、どういう反応するかなと思ったら、「あいつ面白いですよ」と言いました。(注:2013年に引退した山田暢は現在、スカウト活動を担当)
 山田暢はレベルの高い選手だったから、あまり人を褒めないんですよ。この子は結構良いところがあるんじゃない?と言っても、「うーん、わかりません」とか濁すんですよ。そういう職人肌というか、彼なりの基準がある。でも、伊藤については珍しく「こいつはうまいですよ」と言ってきました

 伊藤は見ていてムラを感じることもありましたが、徐々に安定して、運動量も増えました。ただ、なかなか余分なことをしなかったですね。高校3年の8月に一度、レッズの練習に参加させたんですよ。そして練習試合に出たら、すごく良かった。伊藤本人が言うには、今まではパスを出してサッと動いても、ボールが出て来ない。どうせ出てこないから、動いても無駄じゃん...と考えていたらしいです(笑)。だけど、柏木陽介とか、鈴木啓太と一緒にやって、そのとき啓太が「この子うまいから使おうぜ」と試合で言ってくれたらしく、伊藤がちょっと動くと、すぐにボールが出てくる。すごく楽しくて、どんどん動いちゃったと。そういう体験をしたから、すぐに「レッズに行きます」と言ってくれたようです。

――今、注目している選手はいますか?
 僕個人というわけではないですが、たとえば去年、スカウトの間で話題になっていたのは、昌平高校の針谷岳晃選手ですね。2年生のときは、もっと身体が小さくて線が細かったけど、ミスが少ない。そのときU-18日本代表監督の内山篤さん、僕の1個先輩なんだけど、「あいつ面白いね。今度呼ぼうかな」と、そんな話もしていたら、見る見るうちに良くなって、高校総体でも有名になりましたね。今後も経験を積めばすごく良くなる可能性があると思います
 今、カールスルーエに行っている山田大記のような感じかもしれません。彼も高校生のときは小さくて線が細くて。上手いけど、プロには行けず、明治大学へ行きました。明治のコーチに知り合いがいるから、「面白いヤツが行くよ」と言ったら、「山田でしょ? 僕大好きです。育ててやりたい」と。それから大学でしっかり4年やって、ジュビロ磐田へ行って、日本代表にも入りました。高卒で獲得してしまったら、プロで出られなくて結局2~3年で大学に行き直すか、J2やJ3のクラブに行く形になったかもしれない。

 日本人は奥手なところがありますし、海外の18歳と比べると、筋肉がつくのが遅い傾向があって大器晩成型が多いというのが個人的な印象です。今は大学がしっかりしているので、すでにスピードがあるとか、身体が育っている選手でなければ、無理してプロに行かず、大学で一生懸命にやったほうが個人的にはいいのではないかと思います
 大学もレベルが高くなっていて、関東大学リーグ、関西大学リーグ、九州リーグ、あるいは東北や東海でもレベルが高くなっていて、地方だと良い経験が積めないというわけではありません。総理大臣杯やインカレに出るようなチームで活躍すれば、プロにも引っかかります。今の大学は良い指導者が増えて、環境も良いです。勉強しているコーチが多くて、レベルの高いことをやろうとしています。

 今、高校などで頑張っている選手には、大学でレギュラーになれない選手が、プロでレギュラーになるのは難しい。スカウトの声がかからないのなら、大学に行って、絶対にレギュラーになって、そして声をかけてもらうんだという気持ちで頑張って欲しいと伝えたいです。無理していきなり高卒でプロを目指すよりも、そういう道もあります。長い目でサッカーを追求し、レベルを高め続ける努力をすることが結果的に目標に近づくことになる、と伝えたいです。