日本屈指のゲームメーカー、中村憲剛選手が読者の質問に答える「KENGOアカデミー」
今回は憲剛選手が最もこだわりを持っていると言っても過言ではない「ボールを止める」ことについて話をしてもらったぞ!

【読者の質問】
ノーバウンドで向かってくるボールをピッタリ止めることができません。
憲剛選手はトラップするときに、どんなことを心掛けていますか?

【憲剛選手の回答】
質問ありがとう!
僕は「ボールを止める」ことについては、サッカー選手の中でも相当こだわっているほうだと思います。
なぜなら、ボールを止めることは、サッカーの全てのプレーの"出発点"になるものだから。
質問をもらったように、ノーバウンドで向かってくるボールというのは、トラップの中でも難しい技術だと思います。
でも、トラップの技術を磨き抜けば、どんなボールもピッタリと止めることができるようになります。

■ボールを優しく受け止める

技術的な話をする前に、どんなイメージを持ってトラップすればいいのかという話をしていきます。

ボールをピッタリと止めたいときに、僕が頭の中でイメージしているのは「ゼロにする」ということです。
味方がこちらへボールを蹴ってきました。蹴られたボールには、当然スピードがついています。このボールに単純に足を出したらどうなると思いますか? ちょっと数学っぽくなりますが、ボールの速度に対して、足という物体が普通にぶつかれば、反発力が生まれますよね。

そうなれば、足に当たってボールは跳ねて、自分の身体から離れていってしまいます。確かにスペースがあるときは、身体から離れたところにボールをコントロールするほうが有効な場合もあります。だけど、相手に囲まれているときや、素早く次のプレーを行いたいときなど、ピッタリとボールを止める必要があります。

ボールが跳ねないようにするためには、自分の足に当たったときに、スピードを落とす工夫をしなければいけません。

みなさんは「低反発」という言葉を知っていますか? 低反発というのは、反発力が低く、力がかかるとゆっくりと沈み、ゆっくりと戻る、スポンジのことです。クッションやマットレスなどに利用されているので、みなさんのおうちにもあるかもしれません。
この「低反発」こそが、速いボールを止めるときのキーワードになります。つまり、向かってくるボールを反発するのではなく、優しく受け止めてあげる。そういうイメージを持って、トラップして下さい。

■身体を無重力状態にする

では、技術面の話をしていきましょう。

僕がボールを止める時は、「ボールに触る足」ではなく、「もう一つの足」に注目してみて下さい。もう一つの足、つまり『軸足』がどのようになっているか。そこに速いボールを止めるコツが隠されているからです。
KENGOアカデミーのDVDでは、僕がボールを止めて、蹴るというシーンが、それこそ何百回と入っています。その中で、速いボールがきたときに、僕が"あること"をしていることに気がつくはずです。
何だかわかりますか?

正解は「軸足を浮かしている」です。浮かしているといっても、ボールを止める瞬間にジャンプしているわけではありません。本当にちょっと、それこそ数センチぐらいの、わずかな違いです。だけど、このわずかな違いがトラップでは、とても重要になってきます。

軸足を浮かしているとき、もう片方の足はボールを止めるために上げているので、瞬間的に両方の足が地面から離れた状態になっています。これはいわば「無重力状態」です。

「無重力状態」と反対の状態が、軸足が地面にくっついている、いわば「根っこが張っている」状態です。人間というのは、片足で立っているときは、本能的に倒れないようにバランスをとろうとします。サッカーでトラップするときは片足立ちの状態です。
この状態でボールの勢いを止めようとしても、身体のバランスを支えようとするため、完全にスピードを吸収することはできません。だから、あえて軸足を浮かせることで、無重力状態を作り出し、空中で足を自由にしてあげることが必要になります。
とはいっても、僕は試合中に「さぁ、軸足を浮かせよう!」と思ってやっているわけではありません。完全に無意識でやっています。試合中、時間も余裕もない中で、「軸足を浮かせるかどうか」を考えている暇はないからです。

速いボールを蹴ってもらって、軸足を浮かしながらボールを止める。それを練習で何度も繰り返して、無意識レベルでできるようになる。そうなったとき、試合でも使える技術になっているはずです。

▼憲剛選手のトラップの軸足に注目してみよう!


■身体をリラックスさせる

最後に、トラップで大事な要素を付け加えておきます。

それが「リラックスすること」です。

緊張していると身体が硬くなるので、柔らかいボールコントロールもできません。ボールコントロールがおぼつかない選手というのは、ディフェンスからすれば格好の標的です。トラップのタイミングを狙って激しく寄せてきます。そうなれば、味方の選手も安心して動き出すことができません。

リラックスしていれば、視野が広くなりますし、余裕が生まれるので、ボールコントロールもしやすくなります。そして、そういう選手に対しては相手も激しく寄せられません。
ガンバ大阪のヤットさん(遠藤保仁選手)は、まさにそういう選手です。

技術面はもちろん素晴らしいのですが、他の選手と決定的に違うのが、その余裕だと思います。全てを見透かしているような雰囲気があるので、寄せようにも寄せられない。寄せたらやられると相手に思わせている時点で、ヤットさんの勝ちのようなものです。


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中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。小学生時代に府ロクサッカークラブでサッカーを始め、都立久留米高校(現・東京都立東久留米総合高校)、中央大学を経て03年に川崎フロンターレ加入。06年10月、日本代表としてデビュー。国際Aマッチ68試合出場6得点(2015年2月現在)。05年から14年まで10年連続Jリーグ優秀選手賞を受賞。Jリーグベストイレブン5回選出。