熱中症や脱水症状など夏ならではの悩みを上尾中央総合病院でスポーツ医学センター長を務め、日本サッカー協会の医学委員会、Jクラブでも活躍する大塚一寛先生に答えてもらうスペシャル対談企画。前回は流通経済大学付属柏高校の榎本雅大監督の疑問について答えてもらったが、後編ではU-18日本代表でキャプテンのMF藤井海和(3年)とMF田村陸(3年)の二人に気になる悩みについて答えてもらったぞ!

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クーリングは動脈を冷やすのが効果的だが、選手がストレスを感じる箇所は避ける

■藤井海和選手(以下、藤井選手) 熱中症を回避するためにおすすめの飲み物はありますか?

■大塚一寛先生(以下、大塚先生) ナトリウムのような塩分や糖分が入っていて、かつ身体の組成に近いポカリスエットをおすすめしたいと思います。試合の30分前には500ミリリットルから1リットル飲み、試合中も90分の間に1リットルから1.2リットルは摂って欲しいです。きちんと口にすれば、パフォーマンスが2、3割向上すると思います。ハーフタイムには小腸の深部に浸透し、体温を下げる効果があるポカリスエット アイススラリーも良いでしょう。身体の内部を冷やしながら、口から塩分を摂取できるのは一石二鳥です。試合の1時間前にはカフェインの(利尿作用があり脱水の要因にも成り得るため摂取期間に注意してください)入った飲料を飲むのもお勧めしています。ドーピングに引っかからない程度の興奮作用と心の鎮静作用があるからです。カフェインは過度に摂ると骨粗しょう症や胃かいようになる可能性が 高まりますが、コーヒーだと 1 日 5 杯以下なら問題ありません。また含まれるポリフェノールは心臓病・糖尿病・肝疾患などの抗がん作用、血圧降下作用、肥満防止作用 もあります。食事と同様、時間帯に応じて飲み物を変えるのが重要です。

■藤井選手 身体を冷やす際は、どこを冷やすのが一番効果あるかを教えてください。

■大塚先生 一番は首の周りにある頸動脈と股の付け根あたりにある鼠径部です。動脈を冷やすのが凄く重要で、橈骨動脈(とうこつどうみゃく)と尺骨動脈(しゃっこつどうみゃく)がある手のひらを冷やすのも理にかなっています。ただ、選手が試合中に股の付け根を冷やすのは足が冷える気がして違和感を覚えやすく、おでこや後頭部を冷やしたがる選手が多いのも事実です。大人が押しつけるのではなく、医学的に良いとされる物の中で選手自身がストレスを感じない物がベストです。後頭部を冷やしながら、首を少し冷やすだけでも効果が高まります。体温が下がると明確にパフォーマンスが向上するので、少し気を付けて貰えれば良いと思います。

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■藤井選手 熱中症になりそうな選手のサインなどはありますか?

■大塚先生 目まいやふらつきですね。分かりやすいのは、集中力の低下です。例えば、急がなければいけないコーナーキックの際にゆっくり水を飲んだり、周囲が理解できないスペースにいるなどオフザボールの際に集中が切れている選手は、熱中症の初期症状だと気を付けるべきです。そうした段階では、まだ軽度の症状なので、水分をしっかり摂らせてあげれば対応できます。熱失神など強い症状が起きると水分補給では足りないので、ハーフタイムなどに足を高くして横にして寝ましょう。症状がとても強い場合は、全身に水をかけるのがお勧めです。

■藤井選手 活動休止が続き、身体を動かすのが不安なのですが、どんな準備をすべきですか?

■大塚先生 藤井くんくらいの年齢の選手が、元のパフォーマンスに戻るには6週間くらいかかります。段階的に上げていく感覚を持ちましょう。それまでにトップギアに上げようとすると筋肉系のトラブルが発生する可能性が高まります。特に4週間まではとても危ない時期なので、しっかり身体を作り上げるイメージでいてください。身体が元に戻らないからとパニックにならないのが重要で、違和感を覚えるのは当然です。むしろ、まったく問題ないと口にする選手ほど、自分の状態が分かっていないので危険です。

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今回の取材はリモートで行われたぞ。

熱中症対策には冷房が必須。ただし、野外の気温にも慣れよう

■田村陸選手(以下、田村選手) 活動休止中も毎日、体を動かしていたのですが、暑くなってきたので水分補給を小まめにするようにしていました。また、朝昼晩の食事でもしっかりご飯を食べていました。朝と昼は炭水化物を控え、夜は600グラム以上摂るようにしています。これから、より暑くなる夏に食事で気をつけるポイントはありますか?

■大塚先生 田村君のように意識的して炭水化物を摂るのは理にかなっています。身体に糖質を貯め込むためにも、ご飯やパン、パスタなどを多めに取りましょう。体調が悪い時は、うどんのような吸収と消化が良い食べ物を食べてください。多くのエネルギーを必要する試合や練習では、2時間前に軽食としてしっかり炭水化物を摂るべきです。試合や朝練がある2時間前に炭水化物を食べられるのが理想ですが、もし1時間しかないような状況であれば消化の良いバナナやゼリーを摂るのがお勧めです。

■田村選手 熱中症は脱水症状からなると思うのですが、他に熱中症になる原因はありますか?

■大塚先生 湿度が高い場合には、気をつけなければいけません。下痢気味だったり、腸にストレスがかかっている時は熱中症になりやすいので、水分摂取に気を使ってください。田村君は日頃から熱中症対策を意識していますか?

■田村選手 夏場は冷えた部屋の中にいすぎると外の気温とのギャップに戸惑うので、適度に外に出るようにしています。遠征先でもクーラーをつけますが、タイマーで寝ている間に切れるようにしています。

■大塚先生 急激な温度変化は身体が慣れるまでの時間がかかるため、意識的に外の気温を体感するのは理にかなっています。脱水症状でお亡くなりになる人は、野外よりも室内の方がはるかに多いのです。クーラーが身体に悪いと思い込んでいる人が多いのですが、寝れなかったり、寝汗で脱水状態になるくらいならクーラーをかけるべきです。夏場なら28℃くらい、冬場なら24℃くらいが目安です。

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活動を休止していた分までサッカーに打ち込みたい選手が多いだろう。食事や水分補給に気を付ければ、熱中症になるリスクは軽減されるため、意識の差が選手の成長を大きく左右すると言っても過言ではない。今年の夏もポカリスエットを練習や試合のパートナーにし、成長を掴み取ろう!