緊急事態宣言が解除され、休校が続いていた学校生活が戻りつつある。6月に入ってからは、多くのチームが活動を再開しているが、コンディショニング面での不安を感じるチームが少なくない。暑さが増すこれからの時期は、熱中症のリスクを回避するため、頭を悩ます指導者も多い。今回の特集では今年から流通経済大学付属柏高校の指揮官に就任した榎本雅大監督が抱える悩みを、上尾中央総合病院でスポーツ医学センター長を務め、日本サッカー協会の医学委員会、Jクラブでも活躍する大塚一寛先生に答えてもらったぞ!
アイシングではなく、クーリングが重要
■大塚一寛先生(以下、大塚先生) 流通経済大学付属柏高校は2017年度に、インターハイで優勝されるなど夏の全国大会で優秀な成績をおさめられています。夏の活動における熱中症対策など意識されている点はありますか?
■榎本雅大監督(以下、榎本監督) 熱中症対策として試合直前や試合中に、ポカリスエットなどのイオン飲料(スポーツドリンク)を飲んでいます。試合が終わってからは選手の食べたい物を準備しておき、なるべく早く食事を摂るようにしています。激しい運動をした後のお弁当は重たく感じ食が進まないため、バスでも手軽に食べられる軽食を選んでいます。
■大塚先生 夏場の試合後はエネルギーを大量消費し、体重が3、4kg落ちる選手もいるので食事に気を付けるのは良いですね。試合後30分くらいまでは血流が神経の末流に行くため、胃の消化が悪くなるので重たい食事は適しません。胃の消化が正常に戻る30分以上経ってから、しっかり食事を摂るべきです。試合後のクールダウンでは、どういった取り組みをされていますか?
■榎本監督 以前は試合会場でポリバケツに氷を張って身体を冷やしていたのですが、用意している間や選手が浸かっている間にぬるくなり、効果が低くなるデメリットを感じました。今は一刻も早く宿に帰ってから、風呂場に貯めた水に浸かるようにしています。順番を待つ選手も、クーラーを一番低い温度に設定した部屋に待機させています。
■大塚先生 氷ではなく水で冷やすのは素晴らしいです。足首など患部を冷やすアイシングは20分冷やしたら、1時間空けて、また20分冷やすのが良いとされていますが、アメリカでは廃れた考えです。ハーバード大学卒でジョンズホプキンスメディカルスクールの教授でRICE ( R est、 I ce、 Compression、 E levation)の生みの親であるマーキン先生は1978年にベストセラーのスポーツメディカルブックの内容において、アイシングの部分を近年二度に渡って否定した論文を発表されています。アイシングではなくクーリングで6℃以上16℃以下の温度で冷やす方法を推奨しています。人間にとって炎症は悪いことではなく、炎症によって治癒力が促進されます。しかし、6℃以下の氷で炎症を止めると痛みは無くなりますが、治癒力も無くなってしまうのです。
今回の取材はリモートで行われたぞ。
ウィズコロナ時代の部活動で気をつけるポイント
■榎本監督 活動自粛中のミーティングで選手が無理をしないよう60%くらいのコンディションを保つよう伝えていました。低く設定していたため、再開後の焦りはないのですが、怪我の心配はあります。
■大塚先生 トレーニングを休んでも、アジリティーが大きく落ちるということはありません。筋力も自宅でのトレーニングをしている場合は大きく落ちても5%程度なので、すぐに取り戻せます。反対にヨーヨーテストのような強度の高い持久系のトレーニングは、極端に落ちます。ピリオダイゼーションのようなサッカーの動きの中で取り組むトレーニングの場合は、最初から長時間で高負荷をかけると筋肉系のトラブルが起きやすいので、6週間くらいかけて上げていくべきです。紅白戦のような白熱する取り組みは、高校生だと4週間くらい控えた方が安全です。
■榎本監督 活動自粛が続いたため、これからの時期は暑さに順応できるか不安もあります。
■大塚先生 真夏の8月に目がいきがちですが、強烈な熱中症を起こしやすいのは夏に入りかけた時期です。人間は時差や熱さ、湿度に適応するには5日間かかると言われています。プロの選手でも気温が10℃台だった翌日に27℃まで上昇した環境で試合をすると、身体が順応できず熱中症のような状態になったこともありました。試合途中で対策をしても、肉離れする選手や足をつる選手が続出することを止められなかったケースもあります。真夏に差し掛かる6,7月や涼しくなり始めた9月など日によって急激な気温変化が起きやすい時期は特に注意すべきです。WBGT(暑さ指数)の危険度(31℃なら中止)を確認しながら、十分に水分補給をし、無理しないよう気を付けましょう。
■榎本監督 水分補給の際に気をつけるポイントはありますか?
■大塚先生 体重の2%の水分が失われるとパフォーマンスが著しく低下します。3,4%失うとパフォーマンスが3割程度低下し、5%失うと熱中症で倒れてしまいます。とくに運動をしていなくても人間は呼気と尿の排出だけでも2.5リットルもの水分を失います。通常の食事で得られる水分や、体内で作られる水分では足りない1.5リットルの水分を意識的に摂らなければいけません。選手には一気に飲むのではなく、小まめに水分補給をするように伝えて欲しいですね。その際にも。塩分がないただの水を飲ませると体液が薄まり、希釈性脱水を起こしてしまうため適度に塩分を含んだポカリスエットのようなスポーツドリンクを取り入れるのがいいですね。効果的な水分補給をすることで、試合終盤のパフォーマンス向上にもつながると思います。
熱中症は選手のパフォーマンスに大きく影響するため、登壇してもらった流通経済大学付属柏高校を筆頭に強豪校の多くが、熱中対策に力を入れている。ヤンサカの読者の皆も、ポカリスエットで水分補給をし、暑さが増すこれからの時期を乗り切ろう!
熱中症対策がプレーの生命線。流通経済大学付属柏高校が取り組む夏の熱中症対策とは?
連載2020.06.17
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