将来の夢はヨーロッパでサッカーをすること。そんな想いを胸に秘め、日々ボールを追いかけているヤンサカ読者も多いことだろう。そこで今回は「ヨーロッパでサッカーがしたい!」という夢の入口に立った、18歳の少年を紹介したい。話の主人公は冨澤玲太郎くん。東京都にあるサッカーの名門・帝京高校に通う、高校3年生だ。
冨澤くんが海外サッカーに興味を持つきっかけとなったのが、2006年のドイツワールドカップ。テレビの中で驚きのプレーを連発する、ロナウジーニョやイニエスタの虜になった。ワールドカップを見てヨーロッパサッカーを体験したい! という気持ちが強くなった冨澤くんは、小学校4年生になると、アメージングスポーツラボジャパン主催のFCバルセロナキャンプに参加する。
そこでバルセロナのサッカーに触れることで、「ヨーロッパでプレーしたい!」という気持ちが大きくなり、両親には「中学校を卒業したらスペインに行きたい」と直談判。父親は「行きたければ行ってこい」と言ったのに対し、母親は「まだ早いんじゃない?せめて日本で高校を卒業してからにしなさい」と親心からアドバイス。そこで冨澤くんは中学校卒業後、帝京高校に進むことになる。
帝京高校では1年生時からボランチとして出場し、2、3年生時はトップ下など攻撃的なポジションでプレー。高校サッカーを満喫していたが、「ヨーロッパに行きたい」という想いは日に日に強くなっていた。
「もう本当に、早くヨーロッパに行きたい。その気持ちが抑えきれなくなり、色々な人に相談しました。両親は当然のこと、中3のときのスペイン留学でお世話になった、アメージングスポーツラボジャパンの人にも相談して、いまこのタイミングでヨーロッパに行くんだ。そう思ったのが、高校3年生の春でした」
冨澤くんはアメージングスポーツラボジャパンの担当者と相談し、ヨーロッパのクラブで入団テストを受けることにする。彼が向かったのは、中学時代に短期留学し「みんな戦術的な動きができて、ボールを止める・蹴る技術も高い」と憧れたスペインではなく、ドイツだった。その理由を、アメージングスポーツラボジャパンの尾形氏が明かす。
「スペインはFIFAのルールがあって、18歳以下のEU圏外の選手が加入することができません。それに、スペインは戦術理解が求められるので、ある程度の語学力が必要で、18歳で渡っても遅いというのが、正直なところです。その点、ドイツはスカウティングがしっかりしているので、3部、4部リーグで結果を出せば、2部、1部とステップアップしていくことができる環境があります。サッカー選手としても、スペインよりもドイツのほうが、日本人選手の受けはいいですね。日本人選手の特徴である俊敏性や細かな技術は、ドイツ人にはないものですから」
冨澤くん自身も「スペインは憧れの国ではありますが、ドイツはアンダー世代の環境が整っているので良いと思いました。ドイツで頑張って結果を残せば、スペインのクラブに移籍できるかもしれません。それもモチベーションになっています」と語る。
ドイツでは複数のチームの練習に参加し、監督から評価を受ければ入団という流れになっていた。最初に受けたのが、SVザントハウゼンというクラブだった。そこでは2週間ほど練習に参加した。
「練習に参加した当初は、なかなかパスが回って来ませんでした。たまにパスが来たとしても、周りに遠慮してすぐにパスをしたり、シュートチャンスで味方に譲ってしまったり...。最初はメンタル面が全然だめでしたね」
そこで、現地でコーディネートしてくれている日本人スタッフから「外国人は日本人を利用するのがうまいから、遠慮せずに自分のプレーを出せ」ときつく言われたという。
「最初はドイツ語がまったくわからなかったので、パスをくれということも言えませんでした。そこで日本語でもいいので『出せ!』と言ったり、片言のドイツ語で「ヤー」と言って、自分はここにいるんだと意思表示をするようにしました」
ドイツでの戦い方を肌で感じて、数日が経った日の練習のこと。ザントハウゼンの監督の目の色が変わった出来事があった。それまで、遠慮からゴール前で味方にパスをしてしまっていた冨澤くんだったが、コーディネーターからのアドバイスを受け、ボールを持ったらドリブルを仕掛け、強引にシュートを打つようにしていた。
あるとき、ドリブルで相手をかわしてシュートを打ったところ、見事にゴールに突き刺さり、得点を決めることができた。このプレーを監督が評価し、練習参加から2週間後、ザントハウゼンU19への加入が決まった。
「海外でプレーするためには、一番は語学が必要だと感じました。次にメンタルです。ドイツ人よりも日本人の方が、技術面では遥かに上をいっています。でも、ドイツ人は試合で結果を出す。サッカーを知っているんです。やはり、ピッチで自分を表現しないと始まらないですし、誰も評価してくれないと感じました。ドイツでは、ロッカールームの雰囲気からして日本と違うんですよ。日本だと新しいチームに行くと、周りの人が気を使って話しかけてきてくれますが、ドイツでは年齢とポジションだけ聞かれて終わり。こいつは自分と同じポジションのライバルなのかどうかを確認しているんですよね。カールスルーエのテストを受けに行ったとき、監督と選手が面談しているところに遭遇したのですが、そこでは、はっきりと『キミとの契約は今シーズンで終わりだ』と言っていました。選手の入れ替えは頻繁にありますし、戦いはシビアです。その中で勝ち残って行かなければいけないので、メンタル面はすごく重要になると思います」
高校在学中にドイツに渡り、プレシーズンを戦っている冨澤くん。日本の高校サッカーとドイツのU19とでは、どこに違いを感じているのだろうか。続きは次回の後編でお届けしたい。
後編:ドイツサッカーに挑戦!帝京高校の富澤玲太郎にインタビュー!>>(※7月18日掲載予定)
冨澤玲太郎
生年月日:1998年12月26日
身長/体重:177㎝ 72キロ
ポジション:MF 利き足:右利き
得意なプレー:ドリブルからのパス
小学校:保谷東サッカー少年団
中学校:FCトッカーノ クラブユース関東 高円宮杯関東
高校:帝京高校サッカー部