サッカー選手が高めなければいけない能力ってなんでしょう?キック力、スピード、テクニック、判断力、結局全部?......。今回のロシアワールドカップでも日本人選手の武器とされ、日本人が世界で戦うために「なくてはならない」とも言える"アジリティ"をキーワードに、"スピードの質"について考えてみましょう。(文/大塚一樹 写真/新井賢一)

■香川真司、長友佑都が持つ"アジリティ"
必殺技を身につけて、サッカーの試合で活躍したい! 誰もが一度は夢に見るものですが、現代サッカーの必殺技は思ったより地味で、それでいて効果的なものなのです。

ロシアワールドカップでも活躍した香川真司選手(ボルシア・ドルトムント)。身長175㎝の香川選手は、なぜドイツの大柄なDFをかいくぐり、ゴール前で決定的な仕事をこなせるのか?また、小さくても存在感のある身長170㎝の長友佑都選手(ガラタサライSK)が長年ヨーロッパの名門クラブでレギュラーとして活躍できる理由は?

小柄な日本人選手が世界で活躍するキーワードのひとつに"アジリティ"という言葉があります。

アジリティ=agilityは、英語で
(動作の)敏捷(びんしょう)さ,すばしっこさ
(思考・判断の)機敏(きびん)さ


を示す言葉です。
サッカー界では、敏捷(びんしょう)性を高める「アジリティ・トレーニング」とともに10年以上も前からよく使われるようになった言葉です。

■足の速さとサッカーに求められる速さは違う?
サッカーでの速さと「あの子は足が速い」という場合の速さは少し意味合いが違います。

ボールを使ってドリブルする場合は100m走の世界記録保持者ウサイン・ボルトでも世界一の速さとはいかないでしょう。サッカーで求められるのは5mで一気に加速する速さだったり、ゆっくり走っているジョギング状態からトップスピードに入る瞬間的な速さだったりします。

香川選手は、スピードの緩急、左右への単純な切り返しで、相手DFの間をすり抜けていくようなスラロームドリブルで見せ場を作ります。長友選手も90分間激しくピッチをかけめぐるスタミナに加えて、そのダッシュ力、一瞬のスピードで世界有数のサイドバックがひしめくヨーロッパで輝いているのです。

スピードに乗った状態でボールを受けた香川選手が細かいステップでスピードを緩め、ドリブルコースを微調整。バックステップで対応していたDFは、横をすり抜けていく香川選手を目で追うのが精一杯。

さっきまで自陣深くでゆっくり走っていた長友選手が、カウンターのチャンスと見るや相手陣内に疾走、あっという間にシュートレンジまで迫っている。

よく見るこんなシーンでも香川選手や長友選手は「見えない必殺技"アジリティ"」を使っているのです。

■サッカーに必要な"速さの質"を上げる
スピードのコントロールや急ストップ、さらに急発進や急ハンドルなどを組み合わせれば、体の大きさに関係なく、相手DFを手玉に取ることができます。スルスルとゴール前に上がって決定的なシーンをつくり出す香川選手の"アジリティ"はヨーロッパでも高く評価されていますし、DFとしての巡航走から一気にゴール前までかけ上がる長友選手は、世界のトップクラスと言っていい大きな武器です。

いつも全力で走るのは気持ちの上では必要なことですが、サッカーに必要な"速さの質"を上げるためには、相手の動きを見ながらスピードコントロールをすることが大切です。スピードの緩め方、一気にトップスピードに入る加速法、踏ん張らずに急ストップをかける身体の使い方などを早くから身体に覚え込ませれば"地味だけど効く必殺技"アジリティを高めることができるはずです。