2019年12月30日に幕を開ける、第98回全国高校サッカー選手権大会。注目の初出場校が、激戦区・大阪を勝ち上がってきた興國高校だ。これまで10名以上のJリーガーを輩出しながら、全国大会には縁がなかった。それが今年、関大一高、近大附、阪南大高など、全国経験のある強豪を次々に破り、悲願の初出場を遂げた。(文・鈴木智之、写真・森田将義)

(※COACH UNITED 2019年12月6日掲載記事より転載)

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各選手が高いテクニックを備えた攻撃的なスタイル
注目はスタメンの半数以上を占める2年生。背番号10をつける注目選手、U-17日本代表候補のMF樺山諒乃介を筆頭に、U-17日本代表のFW杉浦力斗、チーム一の俊足を誇る南拓都、『興國のブスケッツ』こと湯谷杏吏。そして、プロ注目のDF平井駿助と中島超男、GK田川知樹と、各ポジションにタレントを擁している。
さらには、ツエーゲン金沢加入内定のボランチ、キャプテンの田路耀介とDF高安孝幸。ピッチ内外でチームを支える芝山和輝といった3年生が屋台骨を支え、隙のない陣容が出来上がっている。

興國の特徴といえば、各選手が高いテクニックを備えた、攻撃的なスタイルだ。それに加えて、今年はGK田川を中心に守備が固く、攻守が高いレベルで融合したチームになっている。

興國を強豪に押し上げたボールコーディネーショントレーニング
興國スタイルを作り上げる上で重要な役割を担うのが『ボールコーディネーション』と呼ばれるトレーニングだ。これは興國高校を強豪に押し上げた、内野智章監督が考案したトレーニングで、ドリブルやリフティング、パスなどボールコントロールの練習をリズムでつなぎ、前後左右の動きをつけた、コーディネーションの要素を含んだ技術練習のことを言う。

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具体的に何をするかと言うと、3号球の大きさで5号球と同じ重さのボールや、表面がゴムでできている、柔らかくて小さいリフティングボールを使い、対面パスやドリブル、リフティングなどの基礎練習を行う。

なぜ、通常のサッカーボール(5号球)ではなく、重さや表面の固さが違うボールを使うのか? それは脳に刺激を与えるためだ。内野監督が言う。

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「私が大学時代に出会った、徳島大学の荒木秀夫先生によると、ボールの大きさや重さを頻繁に変えて、脳に異なる種類の刺激を与えると、技術習得のスピードを上げる効果があるそうです。ブラジル人はテニスボールや、小さなボールを使ってリフティングをしていますよね。荒木先生からその話を聞いたときに『だからブラジル人はテクニックが凄いんや』とひらめいて、そこから様々な種類のボールを使って、テクニックとコーディネーションを融合させた練習を開発しました」

スピードと技術を兼ね備えた完成度の高い選手を育成
ボールコーディネーショントレーニングは、器用に足技を繰り出すために練習をしているのではなく、どんな状態でもボールを自在にコントロールし、プレーのスピードを落とさないためのトレーニングなのである。

この練習を朝練やウォーミングアップで行うのだが、練習メニューにも、工夫が施されている。ドリブルやリフティングに「前後の動き」や「斜めの動き」を入れ、左右両足を使って前進、後進の動きをすることで、動作をサッカーの実戦の動きに近づけていく。

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内野監督はボールコーディネーションについて「脳と身体の動作をスムーズにつなぐために、素早いボールタッチや身体の動かし方を通じて、動きの回路を作り上げていきます。ボールタッチがスムーズにできるようになったところで、次はスピードを上げてその動作をすることで、素早くしなやかな動きの中でプレーできるようになっていきます」と、効果を説明する。

テクニックとスピード。これは現代サッカーにおいて、欠かすことのできない要素だ。サッカーの研究に余念がない内野監督は、W杯やチャンピオンズリーグを見て、「シャビ、イニエスタ、クロースのような選手から、アザールやデ・ブライネ、モドリッチのように、技術や戦術理解に加えて、スピードを兼ね備えた選手が、世界の主流になっている」と分析。スピードと技術、さらには戦術理解を備えた選手を育成するため、個人の技術とアスリート能力向上、さらには戦術理解を伴う指導を行うことで、完成度の高いサッカー選手に近づけていく。

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プレーのしなやさかを生む『脱力!』
サッカーをする上で、プレーのしなやさかは重要なポイントだ。身体に力が入りすぎると、持っている最大限のスピードを出すことができず、ケガにつながる恐れもある。いわゆる「力む」という状態だ。適度に身体の力を抜いて、しなやかかつスピードに乗って動くことの大切さは、ネイマールやムバッペなどを思い浮かべると、イメージしやすいだろう。
昨年のエース、村田透馬(FC岐阜)は高校時代、手の骨折を機に、力を抜いたプレーの仕方を覚え、ボールコントロールが劇的に向上したという。今年の準決勝、決勝と2試合連続でゴールを決めたFW杉浦も「(決勝戦のゴールシーンは)監督から『脱力!』と言われていたので、力を入れすぎずにコースを狙って、膝下だけで振るイメージで蹴りました」と、力を抜いてしなやかにプレーすることの重要性を実感している。

また、2年生エースの樺山のドリブルは、しなやかさと技術、スピードを備えており、興國スタイルを体現する選手と言えるだろう。興國の選手は、早ければ高校入学前の中学3年生頃から、ボールコーディネーショントレーニングをしている。それに加えて、身体動作向上のスペシャリストによる、身体の柔軟性や可動域を高めるトレーニングを継続していくことで、テクニックとスピード、しなやさかを身につけて、選手としてレベルアップしていくのだ。