2021年度のインターハイで、全国2位に輝いた米子北高校(鳥取)。U-19日本代表の佐野航大選手(ファジアーノ岡山)やロシアW杯に出場した昌子源選手(G大阪)などを輩出する名門だ。

米子北はサッカーのトレーニングに加えて、「体づくり」にも励んでいる。そこで今回は米子北の選手の「1日の食事」に密着し、その様子を公認スポーツ栄養士の橋本玲子先生に解説してもらった。

横浜F・マリノスで長く栄養サポートを行い、サッカーだけでなくラグビーなどにも携わる橋本先生は、米子北の食事にどんな感想を持ったのだろうか?

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【米子北サッカー部員 一日の食事】
7時 朝食:朝食のご飯はお茶碗1.5杯分
8時 朝練

その間に寮で1個200グラム補食のおにぎりが作られており、2時間目の終わりと昼食前に食べる(計400グラム)

12時 昼食:お弁当でのご飯(お茶碗4.5杯分)

15時 練習前におにぎり1個
15時15分 練習開始
18時 練習終後におにぎり1個

19時 夕飯:どんぶり超大盛り2杯(お茶碗8杯分)
22時 就寝

【一日の米摂取量】
一日 合計お茶碗19杯分!!
(合計8.7合 約2.9kg)
※成人男性の1日のお米の平均摂取量はおよそお茶碗5杯(約750g)
※お茶碗1杯150g計算
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Q:米子北の選手の食事を見た感想を教えてください。

橋本:すごく恵まれている環境だと思いました。トレーニング量に合わせて、必要な食べ物がとれていますよね。周りのサポートや指導者の考え方が素晴らしく、強いチームは、食事も計画的だと感じました。その影響か、選手たちの体も大きく見えます。しかも、みなさん楽しそうに食べています。そこはすごく大事なポイントで、楽しい、美味しいと思いながら食べると、消化吸収にも良い影響があると言われています。食べる量も、サッカーを頑張っている高校生であれば、十二分だと思います。

Q:食事内容に関してはいかがでしょうか?

橋本:お米を中心に、タンパク質も摂っているので良いと思います。お米はエネルギー源である糖質とタンパク質が同時に摂れる食材です。あれだけ激しい運動をしているので、トレーニングに見合った量を食べないと体を維持することができません。私は、お米はスポーツ選手にとってエネルギー源となる、もっとも大切な食材だと思っています。運動前に食べても胃もたれしませんし、素早く消化吸収されてエネルギーになってくれます。脂質も少ないので、海外のアスリートもお米に注目しているんですよ。

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Q:食事のタイミングについてはいかがでしょうか?

橋本:朝起きて朝食を摂り、お昼ご飯の前におにぎりを食べて、練習前、練習後にもおにぎりを食べています。タイミングとしてはとても良いと思います。お米は消化が良いので、基礎代謝量が高く、多くのエネルギーを消費する高校生であればすぐにエネルギーとして消費してしまいます。なので、朝食の2時間後におにぎりを食べるといったように、小腹が空くタイミングでエネルギー源である、お米を補給できるのは、成長期のサッカー選手にとって理想的な摂り方です。

Q:おにぎりを練習前後に食べることで、「練習中の怪我が減った」という感想が出ていました。どのような因果関係があるのでしょうか?

橋本:お米に含まれる糖質は、体の中で分解されてブドウ糖になり、脳のエネルギー源となります。サッカーのプレー中は頭がフル回転しているので、脳にも栄養が必要です。練習前におにぎりを食べることで、集中力、思考力、判断力に良い影響を及ぼし、それが結果的に接触などの怪我の回避につながっているのではないかと思います。

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Q:練習後、すぐにおにぎりを食べていますが、どのような効果があるのでしょうか?

橋本:運動後は、エネルギー源である筋肉のグリコーゲンを使い果たした状態で、体の中にエネルギーが残っていない状態なので、運動後30分以内を目安に、おにぎりを食べることで、使ったエネルギー源を早く戻してあげることができます。その結果、体の回復が早まり疲れも取れやすくなります。この時エネルギーが足りないと、筋肉を分解してエネルギーとして使ってしまうので、適切なタイミングで必要なエネルギーを補給できないと、いくらトレーニングを頑張っても、体重(筋肉)が増えないどころか減ってしまいます。それは成長期の中高生にとって、もっとも避けたいことなので、激しいトレーニングや試合の後は、糖質とたんぱく質が同時にとれるおにぎりなどを積極的にとって欲しいと思います。

Q:おにぎりを食べる時の、おすすめの具はありますか?

橋本:肉や魚は鮭やツナマヨなど、タンパク質の多い具材がおすすめですが、コストがかかったり、暑い夏は衛生面で心配なことがあります。そこでおすすめしたいのが「ごま」です。米子北のみなさんは、おにぎりに海藻を混ぜて食べていましたが、そこに炒ったごまを加えると、成長期に必要なカルシウム、タンパク質、鉄がまんべんなく摂れるので、ぜひ試してみてください。

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Q:アスリートに不足しがちな栄養素はどのようなものでしょうか?

橋本:最近は太るのを気にして糖質を控えている選手が少なくありません。体が大きくなれない、筋肉がつかないと悩んでいるアスリートに話を聞くと、主食である糖質、つまりお米の量が足りないことがあります。運動をしている方は、体づくりのため、パフォーマンスの維持・向上のためにもお米をしっかり摂ってください。お米でお腹がいっぱいになれば、砂糖や油の多いお菓子や甘いジュースなどから余計なエネルギーを摂らずに済むはずです。

Q:一般的な観点から見ると、1日に2.9kgのお米を食べるのはかなり多い印象がありますが、それについてはいかがでしょうか?

橋本:確かにお米の量は多いですが、トレーニングをして体重が減っていないのであれば、それだけのエネルギーが必要と言うことになります。もし、体重が重い場合は少し量を見直した方が良いかもしれません。何がどれくらい必要かは個人差があるので、体重の増減とサッカーのパフォーマンスを見ながら判断するとよいでしょう。また、お米をたくさん食べると、エネルギーを効率よく作るためにビタミンB群が必要になります。そこで、お米に混ぜて炊くだけでビタミンB群が強化できる、ビタミン強化米などをプラスするのもお勧めです。

Q:米子北のみなさんにメッセージをお願いします。

橋本:お米の量だけを見ると、人によっては無理やり食べさせられていると思うかもしれません。私はこの動画を見て安心したのですが、みなさん美味しそうに食べていますよね。食事は本来、仲間や家族が食宅を共にし、リラックスした気分で過ごすことが大切です。1年生と3年生は体の大きさも、食べられる量も違います。無理して同じ量を食べる必要はないので、少しずつ量を増やし、最終的に個々のトレーニングに合った量を食べられるようにするのが目標です。

中学生から高校生にかけては、第2の成長期です。身長と体重が急激に増える「成長スパート期」には個人差があり、人によって身長が伸びる時期は違います。そのときに体を大きくする材料がないと、身長は伸びないし、体重も増えません。その意味でも、中高生は大人よりもしっかりとエネルギーを摂る必要があります。その観点から見ると、米子北のみなさんのように、食事の計画をしっかり立てて、時間を決めて食べるのは、理想的な取り組みだと思います。

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●橋本玲子先生 プロフィール
株式会社 Food Connection 代表取締役
管理栄養士/公認スポーツ栄養士

ラグビーワールドカップ 2019で栄養コンサルティング業務を担当。2003年ラグビーW杯日本代表、サッカーJ1横浜F・マリノス(1999年~2017年)、ジャパンラグビーリーグワン・パナソニック ワイルドナイツ(2005年~)ほか、車いす陸上選手らトップアスリートのコンディション管理を「食と栄養面」からサポート。