2021年度の全国高等学校サッカー選手権大会で準優勝を果たした、熊本県立大津高校。日本代表の谷口彰悟選手を始め、50人以上のJリーガーを輩出している名門校だ。

今回ヤンサカは大津高校サッカー部でキャプテンを務め、U-19日本代表候補にも選ばれた、小林俊瑛選手の一日に密着した。昨年の高校選手権で、2年生ながら攻撃を牽引したエースは、どんな日々を過ごしているのだろうか?

公認スポーツ栄養士の橋本玲子先生による、食事のアドバイスとあわせて参考にしてほしい!

※この動画と記事は2022年7月に取材したものです。

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【大津高校サッカー部員 一日の流れ】

6時 起床

6時20分 朝食

朝食後、おにぎりを作って持っていく

7時 朝練

8時30分 授業

12時40分 昼食

15時20分 授業終了

16時 練習

19時30分 夕食

22時就寝

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Q:小林選手の一日の食事を見た感想を教えてください。

橋本:寮生活をしているので、朝昼晩と決まった時間に食事ができているのは、すごく良いことだと思いました。中学生のときは毎日お弁当を2つ食べていたそうで、その頃から、身体作りに意識が向いていたことがわかります。また、栄養バランスを心がけているのもいいですね。

Q:例えば、小林選手であればどのぐらいの量を食べればいいのでしょうか?

橋本:小林選手の体重から、推定エネルギー必要量を計算すると、1日4275kcalが目標になります。このうち、エネルギー源となる糖質が少なくとも50%は必要なので、ご飯に置き換えると、1日に300gの丼で5杯ほどが目安となります。

【推定エネルギー必要量(kcal)の出し方(または計算式)】

①基礎代謝基準値(kcal/kg/日)×自分の体重(kg)×②身体活動レベル(PAL)+③エネルギー蓄積量(kcal/日)※18歳以上は「エネルギー蓄積量」は必要ない

①基礎代謝基準値(kcal/kg/日)
15歳~17歳男子 27.0kcal/日
18歳~29歳男子 23.7kcal/日
15歳~17歳女子 25.3kcal/日  
18歳~29歳女子 22.1kcal/日 

②身体活動レベル(PAL)
球技系の激しい運動を1日2時間程度行う場合 1.80
球技系の激しい運動を1日3時間程度行う場合 2.00

③エネルギー蓄積量(kcal/日)
15歳~17歳男女 10kcal/日

体重79kg、17歳の小林選手の場合→①27kcal×体重79kg×②2.00+③10kcal=4276kcal

糖質は総エネルギー量の50%以上を目標するとして、1日に最低限必要な糖質⇒4276kcal×0.5=2138kcal 
2138kcal÷4kcal(糖質1gは4kcal)=535g

丼ご飯1杯(300g)に含まれる糖質107g 535g÷107g=丼5杯

Q:運動をする量と体格によって、食事の必要量に個人差があるのですね。どのようにして、1日に5杯のお米を食べればいいのでしょうか?

橋本:一度にたくさんは食べられないので、一日のうちに何回か分けて食べると良いでしょう。朝食で丼一杯、朝練が終わった後、すぐおにぎりを食べて、授業の2時間目が終わった後にもおにぎりを食べる。それから昼食をとり、練習開始前又は練習後におにぎり。そして夜ご飯で丼2杯食べるといったように、小分けにすれば、無理なくご飯の量を増やすことができます。

Q:大津高校ではおにぎりを作っていたので、それを活用することで必要量に近づけることができそうです。

橋本:はい。すごく良い取り組みだと思います。おにぎりにふりかけや塩昆布、熊本であれば名産の高菜漬けなどをプラスすると、美味しく量も食べられると思いますし、
不足しがちなカルシウムなどの栄養素もとることができます。ほかにも、食事の際に缶詰のやきとりや、さんまのかば焼き、ツナ缶などを各自で用意すれば、さらにご飯がすすみたんぱく質の補給にもつながります。スーパーなどで安く買える時にまとめ買いしておくと便利ですよ。

Q:大津高校の食事面で、良かったところはどこでしょうか?

橋本:寮の食堂に「味噌汁が大事」「麦ご飯の栄養価」のポスターが貼ってありました(9:20~画面左上)。味噌汁に使う味噌や米に混ぜて炊く麦には、ご飯に含まれる糖質をエネルギーに変える働きのあるビタミンB群が豊富。ご飯をたっぷり食べるサッカー選手には欠かせないアイテムです。味噌汁は食欲がないときでも食べやすいですし、特に夏場は汗で失われるナトリウム(食塩)の補給にもお勧めです。
以前、サポートしていたJリーグの外国人選手達は「味噌汁が美味しい!」と言って、毎日の様に飲んでいたんですよ。

Q:運動量が多く、成長期でもある高校年代において、食事のとりかたのポイントはどのようなところでしょうか?

橋本:まずは自分に合った食事の量を知ることですね。これは体格や体質、その日のトレーニング時間や内容によって異なるため、正確な数値を求めることはできませんが、先ほどの計算式を使えば目安量をつかむことができます。次に、秤を使って食事の際のご飯の量やおにぎりの重さを計ってみましょう。目で見て食べて、感覚的に一日に必要なご飯の量が分かれば、「今日は朝少なかったので、練習後におにぎりを食べよう」という具合に、一日を通して食事の量をコントロールできるようになります。これはぜひやってみてください。

Q:サッカーをする高校生にとって、食事面で心がけたいことはどのようなことでしょうか?

橋本:空腹の時間を作らないようにしてほしいです。空腹の時間が長いということは、エネルギーが不足しているということ。その間、筋肉のたんぱく質の分解が高まっているので、身体作りの面では良いとは言えません。
Jリーガーを始めとするトップアスリートは練習前に補食、練習後にも補食といった感じで、運動前後におにぎりやバナナ、果汁100%ジュースなどでエネルギーを補給しています。高校生であれば、おにぎりを常に携帯しておいて、3回の食事の間や練習前後に食べて、空腹の時間を作らないことが、身体作りを促し疲労を溜め込まないことにつながると思います。

Q:最後に、ヤンサカ読者にメッセージをお願いします。

橋本:練習の疲れが抜けにくい、サッカーに集中できないと感じたときは、エネルギー不足も要因の一つかも知れません。日々、体重を測っていると思いますが、体重が落ちていたら要注意です。体に必要なエネルギーが足りていないので、普段よりお米を多く食べたり、おにぎりを持ち歩いて、隙間時間に食べたりと、工夫してみてください。

食事も大切なトレーニングのひとつです。自分に何が必要なのかという知識を得ることもそうですし、必要量を把握して、食べることもトレーニングです。食が細い選手でも、毎日少しずつ、段階を追っていけば、食べる量を増やすことができます。それが身体作りやパフォーマンスアップに向けた、良い習慣になっていきます。