全国高等学校サッカー選手権大会に4年連続で出場し、2019年、2020年と、2年連続で全国ベスト4に進出した、帝京長岡高校。小塚和季(川崎)、谷内田哲平(栃木)、松村晟怜(湘南)などのJリーガーを輩出するとともに、テクニカルなサッカーで注目を集める強豪だ。

今回は新設された寮と食堂を備える、帝京長岡高校サッカー部の食事に密着。その様子をJクラブを始め、アスリートの栄養サポート経験豊富な、公認スポーツ栄養士の橋本玲子先生に解説してもらった。全国有数の強豪校の選手たちは、どんな食事をしているのだろうか? 

※この動画と記事は2022年7月に取材したものです。

Q:帝京長岡高校サッカー部の、一日の食事を見た感想をお願いします。

橋本:朝昼夜、補食と充実した内容で、申し分のない環境だと思います。選手たちも、それが当たり前だと思っておらず「ありがたいです」「感謝しています」などの感想が出ているのも、素晴らしいなと思いました。

また「体重が増えて、当たり負けしなくなった」「最後まで走りきれるようになった」など、サッカーのパフォーマンス面で良い影響を感じているのも、良いトレーニングと休息に加えて、良い食事を摂れているからだと思います。

Q:食事の内容はいかがでしょうか?

橋本:おかずを見ても、生姜焼きや他人丼など、お米がすすむメニューが並んでいました。
お米はエネルギー源である糖質とタンパク質が同時に摂れる食材です。丼ものはお米をたくさん食べられますし、生姜焼きの味付(生姜やにんにく)も、お米をたくさん食べるにはもってこいですよね。

栄養的にも、豚肉にはお米の糖質をエネルギーに変えるビタミンB1が含まれていて、疲労回復に効果があります。この日は副菜にニラもやし炒めがありましたが、ニラやにんにくには、ビタミンB1の働きを持続させる働きがあります。お米がすすむメニューで、栄養面も考えられている、とても素晴らしい内容だと思います。

Q:キャプテンの桑原航太選手の食事についてはいかがでしょうか?

橋本:体のことを考えて、たくさん食べようとしていました。その姿勢が素晴らしいです。桑原選手はよく噛んで食べていましたが、噛むことで唾液の分泌が活発になります。唾液にはご飯に含まれるでんぷんを分解する酵素が含まれており消化がスムーズに行われ、栄養の吸収もよくなります。また、脳の血流が増え、酸素を含む血液が脳に行き渡ることで脳を活性化する働きも期待できるんです。

Q:練習前の補食で、モロヘイヤと納豆、卵を混ぜたものを、ご飯にかけて食べていました。どのような効果があるのでしょうか?

橋本:これはすごく良い食べ方で、モロヘイヤはβ-カロテン、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEなどの栄養が凝縮されている野菜です。カルシウムや鉄も豊富なので、成長期のお子さんにおすすめの食材です。

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お米の糖質に加えて、たんぱく質やビタミンも摂ることができるので、栄養バランスも理想的です。ご飯、卵、納豆、稲荷ずしを合わせて、20g以上のたんぱく質が補えます。運動と組み合わせて1回あたり20gのたんぱく質を摂ると、筋肉合成のスイッチが入るため、筋量の減少を抑えるのにピッタリなんですよ。

Q:補食には、いなり寿司があったり、梅干しが用意されていたりと、お米をたくさん食べるための工夫をしていました。

橋本:そのとおりで、いなり寿司も糖質とタンパク質を一度に摂ることができますし、食欲がないときでも、一口で食べられます。梅干しも塩分が摂れて、脱水予防や熱中症対策になります。酸っぱさは食欲アップに繋がりますし、汗で流れ出るナトリウムやカリウムも含まれているので、一つあるだけで全く違いますよね。

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Q:補食のお米の量に関しては、いかがでしょうか?

橋本:おにぎり2個ぐらいの量なので、ちょうどいいと思います。各自、お米の量を測っていましたが、それもすごく良い習慣です。自分はどのぐらいの量を食べれば、エネルギー切れしないのか。あるいは食べ過ぎなのかを知ることで、運動前の補食の適量が分かります。お米をたくさん食べるために、スプーンで食べている選手もいましたが、これも工夫の一つだと思います。

Q:選手のインタビューを見ても、食事の重要性を実感していました。

橋本:お米に含まれる糖質が足りないと、試合中に足が止まってしまったり、強度が高い運動を継続することができなくなります。選手のみなさんは、食事を意識的に摂ることで「バテなくなった」「走りきれるようになった」と言っていましたが、食事の大切さを実感しているのだと思います。

Q:サッカー部専用の食堂があり、明るい雰囲気で、楽しそうに食べていました。食事の雰囲気についてはいかがでしたか?

橋本:明るい環境で、楽しく食べるのが一番ですよね。選手が「食堂は、寮生と通いの選手のコミュニケーションの場になっている」と言っていましたが、チームワークを熟成するためにも、食事は重要な役割を果たしています。

私がJクラブのアカデミーの栄養アドバイザーをしていたときに、コーチの方が「練習後にクラブハウスで食事ができるようにしたいんです」と言っていました。身体作りの面で必要性を感じていたのと同時に、選手やスタッフ間でコミュニケーションをとる時間としても活用したかったそうです。

Q:最後に、帝京長岡のみなさんに、メッセージをお願いします。

橋本:メニューの内容もお米の量も、栄養バランスも申し分ないものでした。通常、寮の食事というと、お肉だけ、魚だけとなってしまいがちですが、今回の食事ではお肉もお魚もメニューに含まれていました。

スポーツの世界では「魚が健康とパフォーマンスの向上によい」と言われていて、欧米のサッカー選手の間では魚を積極的に食べる人が増えています。この日の献立に出てきたサバには、ビタミンB12という貧血予防に欠かせない栄養素が多く含まれているだけでなく、筋疲労を防ぎ筋肉の維持に欠かせない魚の油(EPA、DHA)やビタミンDも含まれています。コンデイション維持やパフォーマンスアップのために、魚を食べるのは重要で、高校生男子が好きなハンバーグや鶏肉などの肉類プラス魚が用意されていたので、よく考えられたメニューだなと感心しました。

映像の中である選手が「中学生の時より、たくさん食べるようになった」と言っていましたが、それも食事の環境が良いからだと思います。新潟はお米が美味しいので、それもポイントです。私も映像を見て、美味しそうなお米だなあと思いました(笑)。

恵まれた食事の環境に感謝しながら、良く寝て、良く食べて、サッカーを楽しんでください。