29日に行われた欧州チャンピオンズリーグ決勝、レアル・マドリー対アトレティコ・マドリー。ヤンサカ読者の中にも、眠い目をこすりながら、世界最高峰の戦いを見届けた人も多いだろう。PK戦の末に優勝したレアル・マドリーには、C・ロナウドやベイル、ベンゼマの『BBC』だけでなく、クロースやマルセロ、そして決勝戦のMVPに輝いたセルヒオ・ラモスなど綺羅星のごとくスターがいる。

スーパーな選手が揃うレアルの中で、ヤンサカ読者にぜひとも手本にしてほしい選手がいる。それがクロアチア代表のルカ・モドリッチだ。174cm、65kgと体格を見れば、日本人選手と変わらない。C・ロナウドやベイルのように、規格外のスピードやパワーを持ちあわせているわけでもない。それにも関わらず、ジダン監督は『銀河系軍団』レアルの司令塔として、モドリッチに全幅の信頼を置いているのだ。

モドリッチはテクニックと持久力はあるが、フィジカルもスピードもない。多くの日本人と共通した要素を備えていると言っていいだろう。彼の一番の特長は「プレーの判断力」にある。いつ、どこへパスを出せば効果的かを瞬時に判断し、そこへ正確にボールを届けるキックの技術を持っている。それはサッカーにおいて足が速い、身体が強いといったわかりやすい特長と同じか、それ以上に重要なものだ。

チャンピオンズリーグ決勝でも、レアルのチャンスはほとんどモドリッチのパスから生まれていた。たとえば、70分にベンゼマが迎えた決定機の場面。まず自陣中央でボールを受けたモドリッチは、ドリブルで前へボールを運ぶ。このときに、顔の動きと上半身の動きで「パスを出すぞ」とフェイントをかけ、寄せてくるアトレティコの選手3人を揺さぶっている。

「パスが来る」と感じたアトレティコの選手は、モドリッチと距離をとる。それが結果的にドリブルのコースを空けることになり、モドリッチは悠々と前進することができた。スピードがなく、競り合いにもそれほど強くはないモドリッチだが、インテリジェンスあふれるプレーで相手と駆け引きをし、自分がプレーする空間を作り出すことに成功した。

そして、絶妙のタイミングで右サイドに開いたベンゼマへパスを送る。ベンゼマは「コントロールオリエンタード(方向付けたトラップ)」でゴール方向へボールを持ち出し、ドリブルでペナルティエリアに進入して、シュートを打った。GKオブラクのファインセーブによりゴールこそならなかったが、モドリッチの特長である「ボールを持って相手を動かし、時間と空間を創り出す」というプレーが見えた場面だった。

モドリッチは「モーゼの十戒」のように、視線とボディフェイントで相手を動かし、ドリブルで進むコースを作り出していった。サッカーは単純な走力やテクニックだけで決着がつくスポーツではない。自分にスピードがなければ、相手の足を止めればいい。当たりに弱ければ、当たられないようにスペースを作り出せばいい。適切な状況把握と判断、そしてアイデアがあれば、優位に立つことができるスポーツなのだ。

モドリッチは中盤でプレーする選手にとって、お手本になるプレーヤーだ。プレーを見るときには、彼がどのように状況を見て、どのような判断をしているかという「頭の中」を想像してみてほしい。そうすることでイメージトレーニングにもなり、上達に役立ってくれるだろう。