サッカーの試合中、時間が経つにつれてスタミナがなくなり、足が動かなくなる――。そんな経験のある人も多いのではないでしょうか。スタミナをつけるために、走り込みを増やすといったアプローチもありますが、身体の動かし方を改善することで、エネルギーを無駄に消費することなく、効率の良い動きをすることができます。

そこで今回は、ヴァンフォーレ甲府・フィジカルコーチの谷真一郎さんに「エネルギーをロスしない、身体の動かし方」について話を聞きました。
記事の最後でタニラダーを使った動画もご紹介していますので、ご覧ください。(取材・文:鈴木智之)

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試合で走り切るためには、無駄な動きでエネルギーを消費しない事も大事

■守備の定説「腰を落とす」は、試合中にスクワットをしているようなもの
谷コーチが例にあげる、エネルギーを無駄に消費してしまう動き。それが「守備の1対1のときに、腰を落として重心を低く構える姿勢」です。

「『重心を低くして、ボールをしっかり見なさい』と教わったことのある人も多いと思いますが、身体の動かし方の観点から見ると、重心を落としてボールを見る姿勢は、非常に効率が悪く、動きにくい態勢なのです」

相手からボールを奪うため、重心を低くして、ボールをしっかり見るのは理にかなっているように思えます。しかし実際にやってみると、動きづらく無駄な動きが多いことがわかります。

「重心を低くする=腰を落とすというイメージです。そのため、ひざを曲げて頭の位置を地面に近くし、ボールを見ます。実際にやってみるとわかると思いますが、その態勢でボールを身体の横に通されたり、ドリブルで抜き去ろうとしている相手に、瞬時に対応できますか?」

谷コーチはそう言うと、「重心を落として、ボールをしっかり見る」姿勢を実演します。両足を肩幅に開き、ひざを曲げると、ももの前の部分に力が加わります。

6ea71cb508bda735eab78e831e9fe3cbed95a178-thumb-600x400-24724.jpg腰を落とし低く構えることは、動きづらいし試合中にスクワットをしているようなものだと谷コーチは言います。

「素早く移動できる姿勢は、肩、ひざ、足の裏の拇指球が一直線に並んだ状態です。腰を落とすとひざが曲がり、肩より前に出てしまいますよね。その時点で、太ももの前側に力が入っています。これは、浅いスクワットと同じ動きです。試合中、ボール保持者と正対するたびに、スクワットをしているようなもので、徐々に疲労が蓄積されていってしまいます」

■重心を低くする守備はひざを痛める原因にも
たしかに、太ももの前側に力が加わると、筋肉に負担がかかるのがわかりますし、その動作を繰り返すと、知らず知らずのうちに足に疲労が溜まるのも理解できます。

「前後の動きをするときも、腰を落として重心を下にすると、ひざが曲がり、太ももの前側に力が加わります。疲労が溜まりやすく、動きにくい態勢になってしまうので、まずは腰を落とすのを止めましょう。そして、ボール保持者に向き合うときや、前後の動きをするときは、身体を半身にして、ひざを曲げすぎず、ステップを踏みやすい態勢をキープします。足のつま先が両方とも進行方向やボールに向いていると、太ももの前側に負担がかかってしまうので、半身にしてひざが曲がらないようにします」

【いい構えの写真】
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肩、ひざ、足の裏の拇指球が一直線に並んだ状態で半身の姿勢を作る

【よくない構え】
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重心を下げるとひざが曲がり太ももの前側に力が入る。疲労をためやすくなる上に動きづらい。

腰を落とさず、ひざを曲げすぎない。無意識にやってしまいがちな姿勢ですが、そうならないように気をつけましょう。

「半身にしてひざが曲がらないようにし、進行方向とは反対の足を蹴って重心を移動させることで、スムーズに動くことができますし、足の踏み替えをすれば、背中側にボールを通されたり、ドリブルで通過されるときも、無駄な動きをせずに移動することができます」

日本代表クラスの選手でも、1対1の場面で悪い姿勢で対応している選手はいます。その結果、身体の横を通られると対応できず、抜かれてしまう。最悪の場合、手を使って相手を倒し、ファウルを取られる場面もあります。

「ひざを曲げる回数が多いので、ひざに負担がかかり、膝蓋靭帯を痛めるマイナス面もあります。重心が下になると、頭も地面に近いところにあるので、上体を起こして移動すると目線がぶれ、ボールから目を離してしまいかねません。なにひとつ、良いことがないんです」

■エネルギーロスが多い守備はトレーニングで改善できる
谷コーチは「これは日本代表選手やヨーロッパの選手にも見られる傾向です」と前置きをした上で「トレーニング次第で改善することはできます」と断言し、ヴァンフォーレ甲府の選手のプレー映像を見せてくれました。

そこには、サイドでボール保持者と1対1になっている選手が、腰を落とすことも重心が低くなることもなく、上体が起きた姿勢で、ドリブル突破を仕掛けてくる相手に対して、素早い動きでボールと相手との間に身体を滑り込ませ、ボールを奪う姿が映っていました。

「ボールを注視するのではなく、上体を起こしてひざを曲げず、目線はボールではなく相手の肩の当たりを見て、全体像をチェックするイメージです。ドリブルをするコースに身体を滑り込ますことができれば、相手が速かろうが強かろうが関係ありません。倒されれば、ファウルになるからです。肩とひざと拇指球が一直線にならず、ひざが肩より前に出ると前のめりになってしまい、頭が落ちて重心が低くなってしまうので気をつけましょう」

【動画で学ぶ】エネルギーロスしない基本の動き ヒザと足首を固める

守備時に対応しやすく、エネルギーロスのない身体の動かし方を教えてもらったところで、どのようなトレーニングでステップワークを強化し、実戦につなげていくかをレクチャーしてもらいました。

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