高い機能を備えたスパイクは、もちろん、中高生フットボーラーにとって強力な武器となる。では、この大切なスパイクとどう付き合えば良いのかと、考えたことはあるだろうか。フットボーラーの道具について全てを知り尽くす達人に、話を聞いた。

選手には、サッカーに集中できる環境が必要だ

ポルトガル語のホペイロを直訳すると、「用具係」。欧州や南米では当たり前のようにチームに存在するこのホペイロが日本にまだ存在しなかった90年代。日本人として始めてプロ契約のホペイロとなったのが松浦紀典氏だ。

「簡単に言えば、選手が練習や試合に手ぶらで来て、手ぶらで帰れる環境を作ること。それが僕の仕事です。着るもの、履くもの、飲むものなどを全て管理し、サッカーに集中出来る環境を僕らホペイロが作るんです。選手は試合で勝つことが全て。でもホペイロは"試合"というものをちょっと違った意味で捉えています。例えば第一節の試合が終わって笛がなる。するとホペイロは、すぐ道具を片付けて次への準備を行う。つまりのそこから第二節がすぐ始まるんです。常に、次の準備を考えるのが仕事の基本ですね」

「準備」にはさまざまな事柄が含まれる。例えば、試合の4時間前にピッチへ入るという松浦氏はまず、芝の様子をチェック。芝の長さ、ぬれ具合、土の硬さなどを見ながら、ピッチ全面を見て回り、それぞれの選手に応じたスパイクをその選手のロッカー前に置いておくのだ。試合中も、休む間はない。ボールが動く遙か遠くでGKが合図を送ってきたら、替えのGKグローブを用意し、手渡すといったことまで行い、選手やチームをサポートする。

名古屋グランパスエイトには、こうした役割を担う松浦氏が常に「準備」に気を配っている。ところが中高生やアマチュア選手には当然、ホペイロなどついてくれない。つまり、プレーに集中するためのあらゆる「準備」を、本来は自分で完璧に行わなくてはならない訳だ。その「準備」の中で非常に重要なのが、スパイクのケア。日頃、松浦氏は、どのような考えのもとプロ選手のスパイクと付き合っているのだろう。

「選手からは全てをまかされているので、それぞれの選手に応じて僕らホペイロがスパイクを準備していく。例えばDFの増川隆洋選手の場合は、スパイクが納品されると必ずつま先を少し削り落として、足の抜けを良くするんです。闘莉王選手は足のサイズが28cmなんですが、スパイクはキツ目の27.5cmを履く習慣があるので、皮を少し伸ばす作業をして整えておくんです。そしてどんなスパイクに対して、新品同様に磨き上げるのが基本。一回使ったスパイクは、スタッド、ソールからアッパーの縫い目まで、ピカピカにしていくんです」