サッカーの戦術は複雑化し、選手のアスリート能力も向上。ボール扱いの巧みさに加えて、それを活かすための判断力、身のこなしなど、様々な要素が求められています。

スポーツバイオメカニクスの研究を長年続ける、筑波大学の浅井武先生は「サッカーの戦術を実行するためにも、ベースとなる技術は大切です。それは、どれだけサッカーが進化しても、変わることのない事実だと思います」と言います。
後編では、技術を思いどおり発揮するために重要な「調整力」について、サカイクが開発したトレーニングボール「テクダマ」を使った具体的なトレーニングを教えていただきました。

(※サカイク 2019年12月6日掲載記事より転載)

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■ミスが少ない選手は身につけている「調整力」
前編でも解説したとおり、やろうとしたテクニックが実現できなかった時に、リカバリーするための動きは、"調整力"の一つです。

味方のパスが思ったところに来なかったり、少しトラップが大きくなってしまったりなど、イメージどおりにボールが来ないことはサッカーではよく起こります。その時に、足や体を少し動かして、ボールをコントロールするなどの対応が必要になりますが、「その反応速度、身のこなしを高めていくことが、サッカーがうまくなるためのポイントのひとつ」だと浅井先生は教えてくれました。

反応時間を早くするためには、神経系を鍛える必要があります。さらに、神経系というソフトウェアだけでなく、体というハードウェアも同時に鍛えることが重要になります。メッシやネイマール、イニエスタといった選手達は、人一倍その能力が長けているそうです。

「技術が高い、ミスが少ないと言われている選手は総じて"調整力"が長けている選手と言えます。現代サッカーは速さや強さが求められていますが、技術が高ければミスや余計な時間のロスも少ないので、結果として速さを生みます。筑波大学で監督をしていた、風間八宏さんもそう言っていました。基礎的な止める・蹴るのスキルは、上のレベルに行けば行くほど求められますし、筑波の選手にも口を酸っぱくして言っていましたね」

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■様々な動きを交えながら練習することがポイント
サッカーのスキルを身につけるためには、判断力や調整力を伴う状況下で、ボールをたくさん触ること。ドリブルやテクニックが際立っている選手は、子どもの頃からたくさんボールに触り、技術を磨いてきました。

「最近、ストリートサッカーを見かけなくなりましたが、大人と子どもが一緒になってプレーして、間合いやリーチの違う相手と戦うことは、技術や判断、調整力を養うには良い環境ですよね」

日本の選手が海外の相手と試合をした後に、「間合いが違った」「足の長さが違うので、イメージ以上に足が伸びてきた」というコメントを聞くことがあります。サッカーのプレーにおいて、ボールや相手の動きに合わせて、体を動かして対応する"調整力"は不可欠です。浅井先生は、調整力を高めるためには「様々な動きを交えながら練習することがポイントです」と言います。

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「たとえば、同じ位置からシュートの練習をするよりも、ゴールまでの距離がそれぞれ異なる位置からボールを蹴るほうが、ズレを調節する力が身につきます。グラウンド状態によって、どのぐらいの力で蹴れば、狙った場所にボールが飛んでいくかも変わるので、環境に応じて、力の出し具合を調節する力は不可欠だと思います。バスケットボールのフリースローも同じ位置からたくさん練習するよりも、複数の位置から入れる練習をした方が、結果的にフリースローの確立も高まるというデータもあります」

浅井先生は「調整力や瞬発力、コーディネーションなどは、ぱっと見でわかりづらいので、手をつけにくい部分だと思いますが、サッカーをするにあたってすごく重要な能力なのです」と、言葉に力を込めます。

「調整力と言うと、なにやら難しそうに聞こえますが、おはしで食べ物をつかんで、口まで持ってくることができる人であれば、身についている能力ですよ」

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■調整力を高める「テクダマ」を使ったトレーニングとは
浅井先生に調整力を高めるために、『テクダマ』を使って、どのような練習をすれば良いのかを尋ねると、次のような答えが返ってきました。

「まずはリフティングです。ボールの中心をとらえる力が身につくと思います。それと、キックの壁当ても良いと思います。普通のボールだと、壁にあたって跳ね返ってくるボールの軌道が予測しやすいですが、テクダマはどこに飛んでいくかわかりません。跳ね返りをトラップしようとすると、足の直前でバウンドがかわるかもしれない。そこで足をスッと出せるかどうか。それが調整力なのです」

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さらに、こう続けます。

「3対3など、少人数のゲームもいいですね。どうバウンドが変わるかが予測できないので、対応する力が求められますし、しっかりとボールを捉えれば、テクダマは重心が偏ったまま、変化せずにスーッと飛んでいきます。コントロールは難しいけど、シュートはまっすぐ飛んでいくので、少人数の試合形式はいいと思います」

ひとりでの自主練や少人数の友達との遊びなどで、テクダマは役に立ちそうです。とくにジュニア年代では技術を身につけることが何よりも優先されるので、普通のボールとテクダマを交互に使うことで、脳に異なる刺激が与えられ、様々な動きに対応する力も身につくのではないでしょうか。

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■テクダマは「無意識のレベル」を高めるボール
「普通のボールが教科書だとしたら、テクダマは参考書です。テクダマを使うことで、脳にも体にも複雑な刺激が与えられます。いわば応用問題のようなもので、先ほど反応速度の話をしましたが、考えてから反応しているのでは遅く、人間の能力の大半は無意識下で行われています。だから、無意識のレベルを上げることが大切なのです」

浅井先生の言葉を借りれば、テクダマは「無意識のレベルを上げることのできるボール」と言えるかもしれません。実際にテクダマを蹴ってみると、「こう動くだろう」というイメージに反する動きをするので、とっさに足を出すこと、体を瞬時に移動させることなど、普通のボールとは違った動きが求められます。それは、実際の試合でも必要な動きです。

「反応速度をいかに高めるか。イメージと違ったところにボールが来たときに、どれだけ素早く対応できるか。その能力を養うことができるボールだと思います」

浅井先生も興味を持つテクダマ。機会があれば、実際にボールを蹴ってみて、動きのユニークさを感じてみてください。

浅井武(あさい・たけし)
筑波大学体育系教授。工学博士。研究分野はスポーツバイオメカニクス、スポーツ工学。日本人スポーツ研究者としては、はじめて国際物理科学雑誌『Physics World』に論文が掲載。モーションアナリストとして、また、キック研究の第一人者として、新しいサッカーボールやスパイクの開発にも携わってきた。名門・筑波大サッカー部の顧問も務めるなど多方面で活躍する。