ヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチ谷真一郎氏が監修する「タニラダー」の講習が2月に京都橘高校で行われた。現在、Jリーグ9クラブが採用し、1万人以上の使用者がいるタニラダー。2012年に選手権で準優勝を果たして以来、4年連続で全国の舞台に立つなど京都橘も「うちの選手はウェイトトレーニングをやらないため、足や身体の使い方が下手で、克服したかった。それにアジリティが身につくと、怪我の防止になるのではと思って」(米澤一成監督)との考えから、約2年前から導入。身体のバランスを整えるために、毎日のトレーニング前に実施するだけでなく、選手権の際もウォーミングアップで使用してきたという。だが、これまで指導を率先してきたコーチが昨年春にチームを離れ、選手も導入当初を知る代がいなくなり、「ただ、メニューをこなすためになっていた」(米澤監督)。そのため、今回、講習を受けることで正しいトレーニング方を学ぶことになったという。(取材・文・写真/森田将義)

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■速く走るためには力加減を学ぶことが重要
タニラダーを導入したメリットとして、米澤監督が挙げるのが「ステップワークが良くなったこと」。京都橘高校には様々なチームから選手が集まるため、選手によって身体の使い方は千差万別。小学校や中学時代にラダーを行っていても、正しい動きを学んでいる選手は少なく、ただこなすだけだった選手も多い。「低年齢の時からやるとより効果が大きいのは確か。だけど、これまで高校までやっていなかったり、無意識でやっていた選手も多いので、タニラダーをこなすことで動きや考えを整理して、具体化できるメリットは大きい。習得の差は大きいけど、高校年代から初めても毎日こなすことで動きが変わってくる」と米澤監督は話す。

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更なる成長を目指すべく行われた今回の講習には主将の岩崎悠人選手を筆頭に61名の部員全員が参加。まず、初めにタニラダーの1マスを2歩で走るメニューを行い、速く走るために必要な身体の動きについて学んだ。開始と同時に講師を務めるタニラダーのインストラクター、荻原孝俊コーチから教えられたのは「下を向かずに顔を上げて姿勢を良くする」、「身体のイメージは歩く時と同じで」など正しい姿勢。ポイントとなるのは膝をしっかりと上げること。ただし、へその高さよりも上に上げてしまうと身体のバランスが崩れて正しいフォームで走れなくなるので、腰の位置を意識することが重要という。

メニューは、ただ全力で走るのではなく、60%から100%まで10%ずつ力加減を上げながら進んでいく。一通り走り終わると、荻原コーチは「何パーセントの時に速く走ることができた?」と選手たちに問い掛けを行った。60%や100%で手を挙げる選手はおらず、70~90%で手を挙げる選手ばかり。それを見た荻原コーチは「100%の力で走ってしまうと、フォームが崩れてスピードが落ちてしまう。70%から90%の力で走るのが一番良い。正しい姿勢と力加減を知って走ると、何回スプリントしても疲れなくなる」とメニューの意図を明かした。フォームだけでなく、手の握り方も大事でギュッと握ると力んでしまうため、手の中で生卵を割らないように扱うイメージで走るのが良いという。正しい走りの知識を身につけた後は、1マスで1歩、ラダーを終えてからもしばらく駆け抜けるメニューをこなして、実際の走りに近い動きを身体で覚えていった。

■正しい姿勢を身体で覚える
荻原コーチが速く走るためのコツとして挙げるのが
1.良い姿勢で走る
2.1歩の幅を大きくする。
3.足の回転を速くする
という上記の3つ。

まず1つ目の「良い姿勢で走る」ことの重要性を実感するために行ったのがタニラダーを使わず2人1組になって行うメニュー。1人が肩幅と同じところまで足を開き、もう1人が胸を押すと最初は簡単にバランスを崩し、後ろに倒れてしまうが、両足の下に「T」の字を書いて置くだけで倒れなくなる。些細なことで劇的に変わったため、選手たちからは驚きの声が上がった。なぜ変わるかと言うと、しっかり地面に力が伝わり、バランスを崩さないから。適切な両足の幅を見つけることができれば、速く走るために大事な地面を強く蹴ることができるようになる。この適切な足幅をタニラダーのメソッドでは「パワーポジション」と呼んでいるが、反対にパワーポジションを見つけることができなければ、「T」の場所に足をおいても、押されると倒れてしまうという。また、正しい姿勢を身につけるためのもう一つが、頭上で手を伸ばして、背伸びをする動作だ。最初は胸が前に出るのと同時に腰も後ろに出てしまうが、繰り返し行ううちに胸だけが前に出る理想的な姿勢が身につく。

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2つ目の一歩の幅を広げるために最適なのが、ミニハードルを複数設置し、間を一歩で走り抜けるメニュー。一つ一つの幅を徐々に広げることで、歩幅を大きくしていった。また、3つ目の足の回転を早くするために心がけたいのが選手たちに伝えられた荻原コーチのアドバイス。「着地の際に身体の前に足を出してしまうと、カカトからの着地せざるを得なくなり、ブレーキになってしまう。また、身体の後ろで地面を蹴ると力が後方に逃げてしまうので、理想は頭と胸と膝が一直線になるイメージ」。選手たちは頷きながら、動きを繰り返し、自らの物にしようとしているのが印象的だった。