全国屈指の高校サッカー激戦区・大阪府予選を勝ち上がったことで、初出場ながら優勝候補の一角に挙げられる興國高校。過去に10人以上の J リーガーを輩出し、ここ3年で8名のプロが誕生した。ヴィッセル神戸で活躍し、日本代表に選ばれた古橋亨梧の母校でもあり、今年の全国高校サッカー選手権大会でも注目を集めている。(文・鈴木智之、写真・森田将義)
(※COACH UNITED 2019年12月7日掲載記事より転載)
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初の選手権。全国が注目する興國スタイル
今でこそ部員を200人以上抱え、多くのスタッフで運営している興國高校だが、内野智章監督が就任した2006年時は、たった12人の部員しかいなかった。それから13年を経て、全国大会への出場を成し遂げたわけだが、その道のりは平坦なものではなかった。
監督就任当初、中学生に声をかけても、無名の学校に進学を希望する選手は少なく、選手集めには苦労したという。そんな中、2010年に卒業したサッカー部の選手が医大に合格したことで、サッカーだけでなく学業も疎かにしていないことが周囲へのアピールになり、徐々に入学希望者が増えていった。
その後、2012年には山本祥輝、和田達也といった選手が高卒でプロになり、2013年度には北谷史孝、田代容輔が横浜F・マリノスとヴィッセル神戸に加入。この頃から、4-3-3の攻撃的なスタイルで、技術とスピードを備えた選手たちが繰り広げる興國スタイルが、全国的に話題になり始めた。
さらにスペインにも遠征に行き、欧州のエッセンスを吸収。スペインのバルセロナを拠点に世界中で指導を行い、パリサンジェルマンのアカデミー改革を担当した『エコノメソッド』のコーチが、1年生を定期的に指導。ボールを支配してパスをつないで攻め込む『興國スタイル』に必要な個人戦術、グループ戦術の基礎を教え込んでいる。
トヨタで学んだ「オリジナリティ」の大切さ
内野監督は初芝橋本高校、高知大学を経て、愛媛FCでプレーした経験を持っている。愛媛FCではパート社員として、愛媛トヨタ自動車の工場で働いていた。カスタマーサービスやクレーム対応、販売など様々な業務を経験し、そこで得た知識が興國サッカー部のコンセプトを作る際に、大きく役立っていると言う。
「愛媛トヨタは、当時のトヨタグループの中で、社員教育が日本一と言われるところでした。そこでは『どうやって差別化するか』を学び、トヨタの車を選んでもらうために、オリジナリティが大切なんだという考えを叩き込まれたんです」
愛媛トヨタで学んだことを、興國高校サッカー部の監督就任時に参考にした。大阪は、日本屈指の高校サッカー激戦区である。毎年のように全国大会の出場校が変わり、どのチームが優勝してもおかしくない。進学先を選ぶ中学生にとって、選択肢がたくさんある中で、「興國を選ぶ理由」が必要だった。
「当時の大阪には、ボールを大事にして攻める学校があまりなかったのと、僕がバルセロナやクライフが好きだったので『ボールを大事にした攻撃的なスタイルでやろう』と決めました。これが他の学校との差別化です。誰もやっていないことをしないと、注目してもらえないだろうと思ったんです」
興國でサッカーをしたいと思ってもらうために
当時の大阪の高体連といえば、スケールの大きな選手が攻守にハードワークをするという印象で、テクニカルなスタイルを標榜するチームはほとんどなかった。ゆえに「ボールを大事にしてパスをつなぎ、攻撃的なサッカーをする」というのはキャッチーだった。実際にユニフォームの配色もバルセロナと同じ、青とエンジにし、見た目とサッカースタイルから「関西のバルサ」と呼ばれるようになった。
目立つこと、他の人と違うことをすることを「キャラ立ちする」と言うが、興國はサッカースタイルで差別化することで、大阪の中でキャラクターを確立したのである。それには、愛媛トヨタで学んだブランディングが役に立った。
「興國でサッカーをしたいと思わせるには、見た目もかっこよくないと、いまどきの中学生は興味を持ってくれない」と考えた内野監督は、チーム全員で練習着を揃え、ジャージの胸元には、他の学校のように漢字で『興國』と入れるのではなく、『FC KOKOKU』と書いたエンブレムを作った。当時主流だったエナメルバッグも止め、シューズもカラフルなもので揃えた。
「いまでこそ、全員が同じウェアを着て練習をするのは当たり前ですが、少なくとも大阪で最初にそれをしたのは興國だと、声を大にして言いたいですね(笑)」
内野監督の狙いは的中し「あのかっこいいジャージの学校、どこ?」「あのジャージ欲しい」と興味を持ってもらえるようになり、ファッション面でもスタイルを真似し始めるチームも増えてきたという。
Jクラブや他県の強豪校からのスカウトを断り興國へ
見た目のカッコ良さと先鋭的なサッカースタイルが認知されるにつれて、興國でサッカーがしたいと思う選手が増えてきた。さらには大阪のRIP ACEやIRIS生野、大阪市ジュネッスFCといった育成に定評のあるジュニアユースクラブから、将来有望な選手が来るようになった。
その結果、2017年には大垣勇樹、西村恭史、島津頼政。翌年には村田透馬、起海斗、中川裕仁がプロになった。「育成の興國」と評判になり、プロへと旅立っていく先輩の姿を見て、Jクラブや他県の強豪校からのスカウトを断り、興國に進んだのがU-17日本代表候補のMF樺山諒乃介であり、U-17日本代表の杉浦力斗など、現2年生の『黄金世代』である。
高校サッカー大阪府予選決勝戦。1得点1アシストで優勝に貢献した樺山は試合後、「自分が全国に連れて行くという強い気持ちで、興國に入りました。監督を胴上げするのが目標だったので、それができてよかったです」と、自らの決断が間違っていなかったことを証明した。
年月をかけて戦略を立て、選手育成を続ける中で、「選手に選んでもらえる学校」になった。その結果が、内野監督就任14年目にして、初の全国大会への出場だった。
今年度の全国高校サッカー選手権大会に出場する選手のうち、3年生2人(田路耀介、高安孝幸)のツエーゲン金沢入りが決まっている。スタメンの半数以上を占める2年生も、すでに5人がJクラブの練習に参加。年明けにはさらに新たな2人が予定されており、来年は創部史上初となる、1学年3名以上のプロ入りも噂されている。
大会屈指のタレント軍団が、どこまで駆け上がるのか。12月30日に開幕する、全国高校サッカー選手権大会が楽しみだ。
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