よく聞く「チーム一丸になる」という言葉。でも一体、それはどういう状態なのか。誰も予想しえなかったほどの力を生む、チームワークの実態。過去の事例から、チームワークの重要性をしっかりと感じとってみよう。

2014-15 シーズンのプレミアリーグでも、アーセナルがチームワークの妙で大勝利を引き寄せた試合があった。アーセナルといえば、「流れるようなパスワーク」や「華 麗なテクニック」など、美しい攻撃のイメージがまず思い浮かぶ。だが、苦手のアウェーで強豪マンチェスター・シティーと対戦した2015 年1月18日の試合で、アーセナルは全選手が献身的かつハードな守備を90分間徹底し、2-0で見事な"守り勝ち"を収めたのである。いつもの攻撃的なスタイルと美学を封印して戦ったことについて、アーセン・ベンゲル監督は"チームの雰囲気"をくみ取ったのだと後に明かしている。

「チームの安心感は、強い結束力から生まれる。そういう基盤があって、初めて選手たちは個性を発揮できる。戦術もまた、選手たちの感情や自信に合わせたものにしなければいけないんだ」

アーセナルはこの数週間前、まずい守備によって格下のサウサンプトンに0-2で敗れていた。DF のペア・メルテザッカーは、これが「目覚まし時計」となって選手の意識が変わったと振り返る。

「ただ4 バックが並ぶだけでなく、危険なフリーボールに全員で対処できるような守備を実現しなくてはならない。全員がそう理解したんだ」

その言葉の通り、シティー戦では全選手が必死にボールに食らいついた。テクニシャンで知られるサンティ・カソルラのような選手ですら、自陣深くまで戻って相手にタックルを仕掛けた。ベンゲル監督は、選手たちが同じ意識を共有しまとまりつつあるのを感じ取ったがゆえ、あえて"流れに任せる"という選択をした。苦しいときだからこそ「いつも通り」を意識したベニテス監督とは逆のアプローチだが、自分流をあえて捨てたベンゲルの判断もまた、勇気ある決断である。

この試合は、チームが全員で目的と課題を共有できたとき、驚くようなパフォーマンスが生まれるという好例だ。そして、これこそがチームワークの理想の形なのだ。「チームワークがいい」とは、単なる仲良しグループという意味ではない。ヨーロッパのトップクラブでは毎年移籍が頻繁に行われるため、選手たちは決して何年も一緒にプレーしてきた仲というわけではない。だがそれでも、チームに関わる全員が「勝利」という同じ方向を向くことで、個々の能力が最大限に引き出され、チームがチームとして機能するのである。

フリーマガジンSpike!より転載