圧倒的なスピードと類まれなテクニックを武器に、ゴールを量産するメッシ。 世界最高峰のスピードはどのようにして生み出されるのか?
中学時代、100m走で日本一に輝いた経歴を持つ識者のコメントをベースに考察する。

Text:Tomoyuki Suzuki

身体全体を大きく使え

4年連続FIFAバロンドール受賞。多くのゴール記録を打ち立て、名実ともに世界ナンバーワンプレーヤーになったリオネル・メッシ。彼の特徴は圧倒的なテクニックとスピードが融合したドリブルだ。細かいタッチで相手DFを翻弄したかと思えば、ダイナミックかつパワフルな突破で局面を打開し、守備を無力化してしまう。ドリブルをしているにも関わらず、相手DFよりも速いという場面も多く、守備側からすると「体にも触らせてもらえない」という状態なのだ。

では、なぜメッシはあれほどまでに速く動きながら、正確なボールコントロールができるのだろう?
中学時代に100m走で日本一に輝き、現在は常葉大学陸上部監督、浜松開誠館中学校・高等学校サッカー部などで指導をする、里大輔氏はこう語る。

「メッシのように動くためのポイントは、姿勢を安定させて『大きく・速く』動くことです。そのために重要になるのが、身体の使用率です。体を動かすための軸となる部分に『体幹』がありますが、おへその部分だけを体幹ととらえるか、おへそからみぞおちまでの間の広い部分を体幹ととらえるか。その違いで、身体の使用率も大きく変わります。サッカーで必要なダッシュなどの瞬発力は体幹部の力で生み出される部分が大きいので、身体全体を大きく使うことができれば、スピードもパワーもアップします」

メッシは170cmと小柄ながら、パワーで負ける場面はほとんどない。それは自分の身体を最大限まで使い、パワーを発揮するための効率を高めているからだ。ドリブルの際にも、上半身と下半身が連動し、体全体を効率よく動かしているように見える。上半身を小刻みに揺らすことでフェイントをかけ、体重移動を見逃さずに相手の逆を突く。良い姿勢を保持したまま腕と足の中心部をダイナミックに動かすことで、スピードとパワーを生み出しているのだ。

「メッシには、『みぞおちから下が脚』という感覚があると見受けられます。彼は体幹部を使って大きく動くことができるので、上半身が安定し、加速するスピードも速い。さらにメッシは力だけに頼ってスピードを出すのではなく、余裕を持って身体を動かしているように見えます。サッカーのプレーを例に上げると、100%の力を出し、全力疾走した状態でボールをコントロールするのは難しいですよね。人間の体は、力だけで全力を出すと力むことになり、結果としてスピードは遅くなります。これはあくまでイメージですが、100%全力ではなく、80%の力に加え、身体をコントロールすることに意識を向けて走ったほうが、100%の力を出すよりも速く走ることができます。サッカーの場合、80%の力で走ることで、ボールをコントロールする余裕も生まれるわけです」

単に全力で、力んで走るよりも、身体をコントロールすることを優先したほうがスピードが上がり、ボールコントロールもしやすい。これはぜひ覚えておきたいポイントだ。メッシのゴールシーンを見ても、シュートのときに力んでいる様子は感じられない。それどころか、ループシュートが得意なことからもわかるとおり、シュートの場面では身体に無駄な力が入っておらず、自分の動きをコントロールしているのがわかる。