伝統的にパスサッカーを継続しながら強さを磨いてきた大阪の強豪・興國。彼らの美しいパスはどのように生まれるのか。その練習に潜入してみよう。

大切なのは、パスのための状況把握。効果的なパスにはきちんとした情報収集に加え、ドリブルへの意識が大切。興國高校の内野監督に練習のポイントを教えてもらった。

■なぜポゼッションを重視するのか?
勝つための手段として、前回のオリンピック代表のようにしっかり守備から入る戦い方もあれば、パワーを全面に出した戦い方もあります。その中で、うちが勝つために選択したのは、ポゼッションを重視する戦い方でした。

360度のコースがある中でどこに蹴るかを考えたり、ボールを止める方が良いか、蹴る方が良いかを判断すると、一人ひとりに責任と判断が求められ、個人能力が上がります。一人でも多くの選手に19歳以降もサッカーを続けて欲しいので、ポゼッションサッカーが良いのではと考えたのです。

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■相手の守備を見ることが大切
興國ではポゼッションサッカーとは言わず、ポジショニングサッカーと呼んでいます。ボールを受ける選手の位置によって、相手が立つ位置も変わり、生まれるスペースも変わる。そこにボールを通すことができれば、相手がまた次の守備位置へと動き、また新たなスペースが生まれる。

適切なポジションに立てば、自分たちが意図した通りに相手を動かすことができ、試合を優位に運ぶことができます。ポジションをとる際に大事なことは相手の守備方法を見ること。

ポゼッションサッカーと聞くと細かいパス回しばかりになってしまいがちですが、相手がコンパクトに守ってくれば、ボールを回すのは難しい。そうした相手に対しては、空いたスペースにポジションをとり、長いパスを通すことが効果的になる。

ポゼッションサッカーは相手の状況を見極める、リアクションの意識が鍵になります。ピッチで起きる莫大な情報を得るために、下を向くのではなく、常に顔を上げておかなければならないので、足元を見なくてもボールを扱える高い技術力が前提として必要です。

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■有効なパスのためのドリブルを
うちのチームはポゼッションを重視していますが、選択肢がパスだけにならないようにしなければいけません。パスをつなぐ際に大事なのはまず、数的優位を作ることです。

そのためには、ボールを持った選手がマークを一人はがさないと数的優位になりませんし、守備を固められると崩しきれません。

たとえば、スペイン・バルセロナのサッカーもパスばかりが注目されますが、彼らはドリブルを交えることで数的優位を作り、パスのつなぎやすい状況を作っています。

つまり、1人で2人の選手を引き付けることができれば、周りの選手が数的優位になることができる。ですから、興國高校ではパスと同じくらい、ドリブルの練習を徹底しているのです。ドリブルは前進するためでもあり、パスの準備にもなるんです。

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■つねに、ピッチの状況を認知せよ
最近、選手たちによく伝えるのは"認知"という言葉なんです。スペイン遠征を実施した際にバルセロナのシャビは二手、三手先まで考えてパスを出し、5秒後に生まれるスペースが見えていると聞きました。

なぜ、そんなことが出来るかというと、ピッチの様々な情報を認知することで、最適なプレーを判断し、1本のパスでその後、どうボールが動いていくかをイメージしているから。

そのためにまず大事なのは、味方と相手、自分の立ち位置を常に認知しておくこと。加えて、自分が今どのエリアでプレーしているのかを認知していれば、どんなポジショニングをとり、どんなプレーをすべきかが分かってきます。

また、ボールを預ける味方が受けた際に、どんなプレーが出来るのかを認知することも大事。左右どっちの足にパスを出すかによって、受ける選手の選択肢も変わってきます。味方の状況を認知すると、次のプレーをしやすいようにボールを出すことができるのです。

こうした「認知」を意識づけさせるためには、日頃の練習が大事。選手たちに漠然と『考えろ』と指示を出しても身につかないので、『2対2の状況だから、どうする?』といった具合に、具体的なシチュエーションを伝えるようにしています。

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内野智章 監督
現役時代は初芝橋本高、高知大、愛媛FCでプレーし、引退後の2005年に興國高の監督に就任。全国大会の出場はないが、4人のJリーガーを育てるなど個性のある選手育成に定評があり、近年、注目される指導者だ