第97回全国高校サッカー選手権大会
19年1月14日(月祝)14:08キックオフ/埼玉県・埼玉スタジアム2〇〇2
観客 54,194人/試合時間90分
青森山田 3-1 流通経済大柏

■得点者
(青森山田)
壇崎竜孔(前半40分)
壇崎竜孔(後半18分)
小松慧(後半43分)
(流通経済大柏)
関川郁万(前半32分)

■ゲームのあらすじ
序盤から一進一退の展開が続く中、先手を奪ったのは流通経済大柏。前半32分に右CKから、⑤関川郁万がヘディング弾をたたき込んだ。追いかける展開を強いられた青森山田だったが、焦らずに⑥天笠泰輝を中心にパスをつないで攻撃のリズムを作り、40分には⑨佐々木銀士の飛び出しから⑩壇崎竜孔が同点弾をマーク。後半18分には右サイドを突破した⑪バスケス・バイロンのパスから⑩壇崎が2点目を奪い、逆転した。終盤は流通経済大柏のパワープレーを受けたが、終了間際に⑬小松慧が3点目決めて勝負あり。3-1で熱戦を制した青森山田が、2度目の日本一に立った。

■ピックアップコラム
2つの危機を「負けず嫌い」たちが乗り越えた青森山田が2度目の日本一

「後出ししてでもジャンケンで勝ちたいタイプ」。そう笑いながら自己分析するのは、2年ぶり2回目の選手権優勝を達成した青森山田・黒田剛監督だ。今年のチームは、そうした負けず嫌いな指揮官に似ているタイプの選手が多いのが特徴かもしれない。

勝ち上がりにも、彼らの性格はよく表れており、準々決勝の矢板中央戦では先制点を許しながらも④二階堂正哉の2ゴールで逆転勝ち。準決勝の尚志戦も後半終了間際に⑬小松慧の同点弾で追いつくと、PKの末に勝利した。黒田監督は「プランが崩れても持ち直せるのが今年のパワー。負けん気が強くなければ、こうした舞台で勝てない。そうしたメンタルの部分は2年前の(初優勝した)チームに似ている」と口にする。

ただ、負けん気が強い選手が多い故に、チーム作りとしては難しさがあったのも事実だ。今年の代は負けん気と同時に個性も強く、そうした性格がチームにマイナスの影響を及ぼすことも珍しくなかった。チームが下降線を描きそうになったタイミングで、指揮官がおこなってきたのが一種のショック療法で、「心を動かすのは危機感が必要。慢心的な気持ちが過信につながって、パフォーマンスが落ちてくるので、常に悲劇を糧にしながら、やってきた」という。

今年の代にとって悲劇と言えるのは、夏のインターハイだ。2回戦での昌平戦では、優勝候補との前評判どおり2点を先行したが、そこから4失点し逆転負け。黒田監督は当時について、こう振り返る。「負けた原因が明らかだった。2点リードしてからみんながやるべきことをやらなくなった。『3点目を取るのは俺かな?』って、前に4、5人くらい残って守備しなくなって、取り返しがつかなくなった。チームになってなかったと思う」

夏の敗戦によって、現状に危機感を覚えたチームは、インターハイ明けのプレミアリーグEASTで5勝1分とハイペースで勝ち点を積み上げ、優勝争いを繰り広げたが、第16節からは2試合連続で白星をつかめず、プレミアのタイトルを逃した。「いいところまで行くんだけど、勝ち切れない、(タイトルを)取り切れないのは何が理由かを考えた」黒田監督は12月に入ってから、自らの手でチームに悲劇を加える。選手権で優勝候補と呼ばれ、勘違いしてもおかしくない状況を打開するために、キャプテンをJリーグ札幌内定の⑩檀崎竜孔から、①飯田雅浩に代えたのだ。「失敗覚悟で科学反応を起こそうとした。ただ、今年の選手なら絶対にまとまってくれるだろうとも確信していたから、敢えてぶち壊して突き放して再構築するのを試みた」(黒田監督)。

プレミアリーグから終わってから組んだ練習試合は、直前の御殿場合宿で実施した1試合のみ。「試合なんかやっている場合じゃないという状況まで持って行ってからチームを作っていた。試合に飢えた状態だったと思う」(黒田監督)ことが結果として奏功した。「一つになればパワーはあるのに、ずっとバラバラだった。そうした状態でチームが崩れたので、ミーティングを繰り返し、選手権の決勝まで学び続けようと決めた」と振り返るのは⑪バスケス・バイロンだ。

チームを再構築したことで、ワンランク上へと成長したチームは、初戦となった2回戦で草津東に6-0と大勝。続く3回戦では、優勝候補との呼び声も多かった大津にも3-0で勝利した。準々決勝以降は相手に先手を許す展開が続いたが、指揮官が「大会というのは生き物。いいことばかりでは絶対に終わらない。悪い流れで勝ち上がって反省材料を持って次に進めることが、いちばん有難い」と話したように、危機感を持って次に進めたのは彼らにとって理想的だった。危機感をプラスの力に変え続けるのは決して簡単なことではない。だからこそ、負けず嫌いな彼らが刻んだストーリーは称賛に値するだろう。

取材・文:森田将義(フリーライター)
写真:松岡健三郎 本誌

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