■人間性を重視し、全寮制で日々の生活から指導
トップチームの躍進に呼応するように鳥栖U-18も今、まさに飛躍の時を迎えようとしている。今季の鳥栖U-18の最大の目標は「プリンスリーグ九州への昇格」(金明輝監督)。佐賀県一部リーグでは優勝をほぼ手中に収めており、プリンスリーグ参入戦で今季の目標達成に挑む。
鳥栖U-18のスタイルはトップチームに似通っている。「GKからビルドアップして、ボールを大事にする。でも、後ろだけでなく、相手の背後も狙いながらやることも意識しています。相手が狙いを定められないような攻撃ですね。また、守備はアグレッシブにボールを奪いに行く。高い位置で奪う。相手ゴールに近いところで奪いたい」と金明輝監督は鳥栖の伝統とも言える堅守速攻をそのベースとしている。
全国の舞台でも互角以上の試合を見せるなど近年、力は着実に伸ばしている。「勝ち切れない弱さはまだある」としながらも「良いところまでは持ってこれている」と金明輝監督はチームへの手応えを語る。
これまでは鳥栖U-15や鳥栖U-15唐津に所属していた有望な選手たちが鳥栖U-18には昇格せず、近隣の強豪校に引き抜かれていくという流れがあった。しかし、鳥栖U-15でコーチ、監督を歴任した金明輝監督が今季から鳥栖U-18の監督に就任。それにより、「一緒に強くしていこうという思いを親御さん、子供たちに伝え続けてきましたし、それが今、良い形で具現化されている」と確実に流れが変わりつつある。
また、トップチームがそうであるように鳥栖-18も人間性を重視する。「うちは全寮制なのでみんなが家族という意識ですし、絆を持ちながら生活しています。でも、ピッチではやはりみんながライバルですから。そういうところも植え付けながら、自分の生活リズムをしっかりと整えながら、普段の生活でもごみが落ちていたら拾うとか常に気の利いたことができる選手がプレーでもピッチでもすべての面に通じていく」金明輝監督は日ごろの生活から目を配らせている。
マッシモ・フィッカデンティ監督の意向もあり、今季はトップチームの練習に鳥栖U-18の選手が頻繁に呼ばれるなど交流が増えている。さらに石川啓人、田川亨介がトップチームに昇格が内定。石川はすでにJ1リーグ戦でもデビューを果たしており、「クラブ全体で育成に対しての関わりが近年は活性化してきた」(金明輝監督)成果が形として表れている。
小さな街のクラブだからこそ、下部組織からトップチームへ選手を輩出していく育成型クラブへの転換に向け、鳥栖U-18は着実にその存在感を高めている。
■金 明輝監督のコメント
――鳥栖U-18の特長は
「僕が監督に就任して今年が1年目ということで、課されたのはプリンスリーグ九州への昇格です。過去2年間、そこを目指してやってきたんですけど、プリンスリーグ2部がなくなった時点で佐賀県1部からになり、去年はそこで勝てなかった。今、在籍している選手のほとんどがサガン鳥栖U-15、もしくはサガン鳥栖U-15唐津の子たち。僕自身が去年までU-15のコーチ、監督を3年間やらせてもらっていたので、ほぼすべての子どもたちに携わっています。そういう意味ではある程度、僕のやり方を理解している子たちが昇格して、佐賀県1部ではほぼ優勝を決めたと言っていい状況です(取材後に優勝が決定)。あとはプリンスリーグ九州参入戦に向けての準備に入っている段階です。ほかにも全日本クラブユースやJクラブユースでも本選に出場して良い経験にはなったんですけど、結果を残せなかった。チームのスタイルとしてはトップもやっているような形で進めています」
――日本クラブユース選手権やJユースカップでは印象的な試合も演じていますが?
「力がないことはないんです。田川や石川もいますが、他はほとんどスタートメンバーが2年生なんですよ。GKは3年生ですけど、今は高校2年生だけでほとんど活動している状況です。来年度はおもしろいチームになると思います。勝ち切れない弱さはまだありますけど、良い試合はするというところまでは持ってこれているので勝ち切れるチームにしていきたいですね」
――トップチームは伝統的に堅守速攻のスタイル。その流れを汲んでいるのか?
「育成の難しいところで『堅守』ってなるとリトリートするイメージだったり、後ろに数を多くそろえるイメージになると思うんですけど、僕たちもそういう堅守速攻をイメージしながらもなるべく高い位置で奪いに行く。その中での堅守というのはあるかもしれないですけどトップチームを目標としながらもトップチーム以上にボールを動かしたり、ゴールに迫る関わり方っていうのは出していきたいなと思っています。育成ならではのところですけど、結果以上にプロセスが大事だと思うので、クオリティーを向上させて毎年、トップチームに選手を輩出できるようにしたいなとは思っています」
――石川啓人や田川亨介のトップチーム昇格について。
「彼ら2人、去年はくすぶっていましたけどポテンシャルがあるのは分かっていたし、彼らの限界値、力を最大限に出せれば昇格するくらいの力はあると僕も確信はしていました。彼らが全力を出せるようにするための関わりやトレーニングという部分では良い流れになっているのかなと思います」
――トップチームがJ1昇格以降、クラブとして成長を続けている。ユースにも好影響があるのでは
「クラブ自体が鳥栖を育成型のクラブにしていきたいという思いがありますし、近年、海外遠征もたくさん行かせてもらっていたり、トップチームがJ1に居続けてくれる。当然、優勝は目指していますが、小さいクラブがJ1に居続けることも容易ではない。下部組織の子供たちもそこを見ながら、『自分たちが』という思いを持ちながら取り組んでくれている。小さい街だからこそ、クラブに対しての愛情も強いのでそういうところも含めて、しっかり伸ばしていきたいと思っています。トップチームの試合についてもホームはスタジアムで観戦、アウェイは寮でみんなで観るというのは徹底しています。なので、トップチームの結果というのは自ずとみんなが気にしていますし、彼らにとっても死活問題だと思ってますよね。トップチームがJ2に落ちたら自分たちが仮に昇格したとしてもJ2でプレーすることになりますから。今年からマッシモ・フィッカデンティ監督になりましたけど、ユース選手を練習に参加させてくれたり、練習試合にも呼んでくれる。石川や田川にとってはすごくメリットになった部分もあると思いますし、昇格までこぎつけたところもある。クラブ全体で育成に対しての関わりが近年は活性化してきたなと思っています」
――鳥栖はトップチームも人間性を重視しているがU-18での指導において人間形成という面はどう意識されていますか
「ウチは全寮制なのでみんなが家族という意識ですし、絆を持ちながら生活しています。でも、ピッチではやはりみんながライバルですから。そういうところも植え付けながら、自分の生活リズムをしっかりと整えながら、普段の生活でもごみが落ちていたら拾うとか、常に気の利いたことができる選手がプレーでもピッチでも全て通じていくと考えています。自分がしっかりしているか、していないかで、プロになっただけで終わっていく選手もいますし、今の段階から自分の考え方やブレない精神論であったり、そういったものも大事だよということは伝えています。僕自身がプロで活躍できなかった中で足りなかったものが何かを伝えやすいのかなと。あのときこうしておけばよかったというのも自分自身にはあるので、そういうところは伝えていきたいと思っています」
――育成型クラブになるために、U-18の存在をどういったものにしていきたいのか
「今年、プリンスリーグに昇格すること。その上で、その先を見据えること。プレミアリーグに昇格すること。理想としてはトップチームに数多くの選手が育っていって、柏さんや広島さんのように育成出身の選手がたくさんゲームに絡んでいくこと。ウチのように小さいクラブはそういうところが大事だと思います。そういった基盤作りのために、この2、3年がすごく大事だと思っていますが、それができるくらいの選手の質は今、あると思います。九州でのトーナメントでもチャンピオンになりました。僕が監督になっての1年目としては良いスタートが切れたかなと思っていますし、これでプリンスリーグに昇格できればある程度、思っていたプランは実現できたかなと思っています」
――U-15に在籍していた有望選手が近隣の強豪校に引き抜かれていた流れも変わりつつありますが?
「クラブがこういう施設を作ってくれたり、寮も作ってくれたり、環境面は大きいと思います。あとは僕が丸々、2年間、U-15を見た中で、いろいろな話もありましたけど一緒に強くしていこうという思いを親御さん、子供たちに伝え続けてきましたし、それが今、良い形で具現化されています。今年に関しては一切、そういう話もなく、U-18でやりたいという子供たちばかりなので、そういう流れは歯止めをかけることができた。あとは結果を残して常に憧れの存在であるような組織にならないといけないと思っています」
取材・記事/エル・ゴラッソ鳥栖担当 杉山文宣
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